2016 Fiscal Year Research-status Report
台湾「蕃地」の物語及び台湾原住民表象の生成メカニズムの解明
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16K02597
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Research Institution | Kumamoto Gakuen University |
Principal Investigator |
小笠原 淳 熊本学園大学, 外国語学部, 准教授 (70634137)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | テクスト分析 / 「原住民」表象の生成 / 「蕃地」資料のデータベース化 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は「研究実施計画」に示した対象テクスト(及び映像)を精読、精査し、テクストの中から台湾原住民の「神話」「ロマンス」を抽出して分析する研究を計画通りに実施した。特に坂口れい子の「ビッキの話」や「蕃地の女」を初めとする諸テクストや中村地平の「蕃界の女」、真杉静枝の「蕃女リオン」のなかに、神話を基調とする物語性と内地人に供する読み物として創出された内地人男性と原住民女性の「ロマンス」が見いだされることを確認した。繊細な内地の知識青年と野性味のある原住民女性の「ロマンス」というこの枠組みは、蕃地の物語のステレオタイプとして真杉静枝の作品に受け継がれ、原住民の表象が形成されていることが分かるが、戦後に書かれた坂口の作品は、そのステレオタイプに対する内省と批判的な視点から出発している。坂口れい子や津島佑子他の「蕃地」創作については、「多様化する文学、漂泊する作家たち――中国と台湾をめぐる現代文学の歩み」(『教養の中国史』2017)において概説した。 また、当該年度、資料整理とデーターベース化を進める中で、作家の未発表小説を新たに発掘した。このテクストを分析した結果、ここにも内省から発せられる創作傾向が看取された。このように、これらの「蕃地」小説において、神話とロマンスの枠組みを発見し、その生成過程の一部を明確化して明らかにしたことが、当該年度における本研究の意義であり重要性である。 また当初の計画通り、台湾国家図書館や専門書店などで資料収集を実施し、原住民関連の論文や必要資料を入手した。その他に原住民関連の資料整理とデータベース化を進めた。これに関連して、日本統治期台中在住の関係者と連絡を取りながら、当時の台中文化圏の様相を人的関係を中心に調査した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
4月に起きた熊本地震の被災によって、一定期間、大学の施設や研究室等が使えない状況に陥り、復旧まで時間を要した。その影響で当初計画していた学会、例会等での研究発表はできなかったが、「研究実施計画」に掲げた対象テクストの精読と分析を当初計画通り実施した。本研究の到達目標である「「蕃地」の物語及び原住民表象生成のメカニズムの解明」に向けて、当該年度は、その中心的なテーマの一つである、「神話」及び「ロマンス」の要素が「蕃地」の物語及び原住民表象にどう関わっているのかを細かく分析し、物語構造上のいくつかの特徴を解明した。これは当初の研究目的で掲げた「神話」「ロマンス」「文明/野蛮」の生成メカニズムの構図に沿った研究で、最終年度に実施する予定の生成メカニズムの解明に向けて、本研究は順調に進展している。 この分析と同時に、「蕃地」関連資料の整理とデータベース化を進めてきたが、その作業の中で新資料数点を発見し、データ化した。この新たな「蕃地」物語の発見は、今後、小説中の原住民表象の研究を進める上で重要なものとなった。さらに、日本統治期台中在住者や縁故者らと連絡を取りながら、1930年代前後の台中文化圏の様相を人的関係を中心に調査した。原住民関連資料の収集も当初計画通りに実施した。台湾国家図書館や専門書店にて論文や必要資料の収集を行った。以上のように、地震による影響はあったものの、本研究は最終年度に掲げた目標達成に向けて、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は前年度に続いて、対象資料の収集と研究計画書に示した日台の文学と映像作品の比較分析を進める。資料収集は国内の国会図書館や市立図書館、大学図書館、台湾国家図書館や専門書店などで実施する。また台中市近辺では現地調査を行い、報告書にまとめる。 文学作品の分析としては、主に坂口れい子『蕃地』、佐藤春夫『霧社』、中村地平『霧の蕃社』、リカラッ・アウー『紅嘴巴的VuVu』、舞鶴『餘生』、津島佑子『あまりに野蛮な』、映画『セデック・バレ』『餘生Pusu Qhuni』などを対象とし、これらの作品を中心に主に「文明/野蛮」「政治性」の要素を抽出し、台湾「蕃地」物語と原住民表象の生成過程を明らかにする。またすでに収集済みの資料整理とデータベース化を補助者の力を借りて進める。同年度中には中国又は台湾から研究者又は関係者を招聘して、台湾「蕃地」の物語と原住民表象に関する研究会を実施する予定で、随時論文の執筆を進める。 本研究の最終年度には、「蕃地」に関連する資料を引き続き収集していく。特に「理蕃政策」の関連資料の収集を重点的に行う予定である。テクストの解析については、特に台湾人作家の作品における原住民表象の分析に力点を置きたい。主な対象作品は、龍瑛宗の諸作、鄭相揚のルポルタージュ『霧社事件』、邱若龍の漫画『霧社事件』、舞鶴の『餘生』、映画『GAYA--1930年の霧社事件事件とセデック族』、『セデック・バレ』、『餘生Pusu Qhuni』、『KANO』、『台湾アイデンティティ』などである。研究対象作品のテーマ別分類を完成させ、過去2年度の分析結果を総括し、「蕃地」の物語及び原住民表象生成のメカニズムを帰納的に明らかにして最終的な論文にまとめ発表する。また、日台の研究者数名を招聘して、台湾「蕃地」の物語及び原住民表象に関する研究会を開催し、その成果を論文執筆に反映させていきたい。
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Causes of Carryover |
4月に起こった熊本地震で被災し、長期にわたり研究環境が整わず、学会等にも参加することが出来なかったため、物品や旅費の使用に遅れが生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、未入手の文学・映像や文献の購入費用、国内国外での資料収集と研究会参加等の諸費用、海外から識者を招聘する際の人件費・謝金の一部に充てる計画である。
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Research Products
(1 results)