2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K02771
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
岩部 浩三 山口大学, 人文学部, 教授 (90176561)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 総称文 / デフォルト的認知能力 / 冠詞 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,総称をある種の数量詞として取り扱う数量化分析が総称文研究の中心となっていたが,Leslie(2008等)によって,総称文研究が新しい展開を見せている。Leslieは,総称文はデフォルト的認知能力を反映しており,all, some, mostのような明示的数量詞とは異なる性質を持つことを明らかにしている。また,社会的偏見の根底にはこのデフォルト的認知能力が関わっていることも指摘している。 英語における総称は無冠詞複数(BP),不定単数(IS),定単数(DS)の3つの形式で表されるが,平成29年度は,それらに対する従来の研究とLeslieの主張とを合わせて,認知能力の複合性仮説として整理し,論文にまとめた(岩部浩三(2016)「総称文の多様性と認知能力の複合性--社会的偏見の克服に向けて--」『英語と英米文学』51:1-16,山口大学)。その要点は以下の通りである。 ・3歳までに発達するデフォルト的認知能力に対応する英語総称文の形式はBPである。 ・4歳以降,数理的・論理的認知能力が発達し,BP総称文が多義的に感じられるようになると,多義性を区別するためにISやDSなど有標の形式が求められるようになる。 この仮説が正しければ,デフォルト的認知能力を背景とする社会的偏見は,有標の形式,とりわけISを正しく使い分けることによって克服できる可能性がある。また,認知能力の複合性仮説自体は英語に限定されるものではないと予測され,一定の修正を加えれば他言語にも有効であると推測される。英語とは一部異なる冠詞体系を持つフランス語や,冠詞を持たない日本語などで総称文がどのように使い分けられているか,購入した書籍等に基づいて研究を進めるとともに,フランス語やスペイン語等の他言語の研究者とも情報交換を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画では,平成29年度に論文を執筆し,30年度に学会発表を行う予定であった。 しかしながら,フランス語やその他言語の研究は,個人単独で行うには限界があり,他の研究者と連携すべきとの認識に至った。したがって,28年度中に,十分な検証を受けていない段階の仮説としてでも自説内容を早めに論文にまとめて発表することにした。その原稿を準備している段階で,学内言語学研究会に属する研究者を通じてフランス語学関係者にこの内容が伝わり,平成29年度の日本フランス語学会において総称文に関するシンポジウムを計画していただき,発表者の一人として成果発表の機会を得た。同シンポジウムの発表者には,フランス語に加えてスペイン語の研究者もいらっしゃり,当初計画に入っていなかった言語にまで研究を発展させられる可能性も出てきた。
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Strategy for Future Research Activity |
認知能力の複合性仮説に基づいた総称文研究の枠組みを日本フランス語学会において発表を行う機会が得られ,その準備段階において始まったフランス語とスペイン語の研究者との研究交流を6月の学会後も継続し,相互の研究に資する予定である。 例えば,英語とフランス語の冠詞の用法は異なっており,無標の総称文形式が英語では無冠詞複数形であるのに対して,フランス語では定冠詞のついた複数形であり,総称は定・不定の区別を超えた現象であることが予見される。また,フランス語には不定単数形と不定複数形の区別もあり,英語では不定複数形には冠詞が付かないため無冠詞複数形との形式上の区別がない。このような相違点についてスペイン語も並行的に比較研究を進める。 このような詳細な比較研究から得られた知見を元に,冠詞や単複の区別のない日本語総称文の深い研究が可能になる。研究の進展にともない今後必要な文献も明確になってきており,計画通り図書購入等も行うことで,29年度以降も順調に研究を推進できると考えている。
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Causes of Carryover |
研究成果発表のための論文執筆を平成29年度に予定していたが,仮説の段階でも早めに発表する方が良いと考え,28年度後半に執筆を行った。その間,仮説を十分検証するために予定していた書籍の購入を遅らせた。その後,29年度にフランス語学会での発表が決まったため,29年度に残額を回し書籍購入と旅費支出の両方に備えることにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度は,当初学会発表のための旅費を申請していなかったが,28年度残額を加えることで,必要な書籍購入に大きな不足を生じることなく,旅費を確保できる。
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Research Products
(1 results)