2016 Fiscal Year Research-status Report
複合動詞の習得における母語の影響の解明:中国語・韓国語・英語母語話者を対象に
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16K02948
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
庄村 陽子 (一瀬陽子) 福岡大学, 人文学部, 准教授 (30368881)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
團迫 雅彦 九州大学, 人文科学研究院, 専門研究員 (50581534)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 第二言語習得 / 複合動詞 / 日本語 / 韓国語 / 中国語 / 英語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はまだ解明の進んでいない「複合動詞」の第二言語習得調査を通して、中間言語において母語の影響が反映されやすい領域と発達上の誤りが出現しやすい領域とを明らかにすることである。本研究で取り上げる主な研究課題は以下の2点に集約できる。 (a)第二言語学習者の母語はどのように第二言語知識に影響を与えるのか。 (b)母語の違いに関わらず、中間言語に共通して観察される発達上の特徴はあるか。
「複合動詞」を有するとされる中国語、韓国語、トルコ語など様々な言語でその研究が盛んに行われている。しかし、第二言語習得研究分野においては自他交替に関する研究に比べ複合動詞の習得研究に関しては、まだ解明の進んでいない部分も多く、言語間の差異が習得にどのような影響をもたらすのかという疑問の解明に至っていない。 そこで上述の課題を解明するために日本語の 2 種類の複合動詞(A)語彙的複合動詞と(B)統語的複合動詞 に関して中国語、韓国語、英語の母語話者を対象に調査を実施し、母語と日本語の類似点や相違 点が学習者の習得にもたらす影響及び熟達度に応じた中間言語の発達過程を明らかにしていこうとするものである。研究初年度は調査の実施に向けての準備を行った。具体的には調査項目である「複合動詞」に関して、調査対象となる被験者の母語である英語、韓国語、中国語と日本語との比較分析を行い、類似点や相違点などに関する入念な整理を行った。また、これらの言語における複合動詞の習得実験を行った先行研究を調べ上げ、現時点で何がどこまで明らかになっており、何がまだ明らかになっていないかを明確に把握するよう努めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者が半年間の国内研修期間に入り、研究分担者及び研究協力者とのミーティングを頻繁に実施することが難しかったことや、研究分担者が自身が代表者である研究プロジェクトを抱えていたこと、また研究協力者が新年度から研究分担者として参加するためにも、博士論文の仕上げに注力していたことなどが理由として挙げられる。 しかし新年度から研究協力者が新たに研究分担者として参加できることになり、2名の研究分担者と共に研究調査を実施できることとなった。そのため、今後は進捗状況も改善し、効率的に業務を遂行することが可能になると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の流れとしては、まず韓国人日本語学習者が産出した誤用が母語の転移によるものなのか複合動詞習得の中間言語に共通して観察される誤用なのかどうかを明らかにする。申請者らがこれまでに行った韓国語 母語話者を対象とした統語的複合動詞の産出実験では、多くの韓国語母語話者が日本語の複合動詞「食べ続ける」と回答すべきところで「*続けて食った」といった「副詞+動詞」型の誤りが観察された(下位集団 50 名中 22 名が産出)。複合動詞の第二言語習得研究における先行研究では、 複合動詞の習得で見られる学習者の誤りの大半は、主に V2 の自他に関するもの(例:吸い始まる) が報告されている(陳 2010 他)。申請者らが報告した「副詞+動詞」型の誤りは、複合動詞の第 二言語習得研究に新たなデータを提供したことになる。韓国語では「食べ続けた」という表現の 代わりに「続けて食べた」と表現するため、今回の誤用は母語の転移ではないかという予測は立つものの、他の言語母語話者における検証が必要であり、韓国語だけでなく中国語と英語を母語とする日本語学習者を加えた調査を実施する計画である。 まずは少人数で予備実験を実施した上で、調査項目に問題がなさそうであれば、本実験へと進んでいきたい。
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Causes of Carryover |
初年度は調査の実施に向けて対象項目の分析や整理に関する準備にかなり時間を要したため、実際の調査を実施することができなかったことが主な理由である。条件に合う被験者を探し、調査を実施するにはまた様々な手続き上の準備期間が必要になるため、早めに計画をつめていく必要がある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は語彙的複合動詞の習得調査を韓国語、中国語、英語の母語話者、統制群として日本語の母語話者に実施する。彼らが他動性調和の原則に従った産出(あるいは容認)をするか、他動性調和の原則に違反するような組み合わせを産出(あるいは容認)するかに関し、産出テスト、判断テストをはじめとするタスクを与えて調査を実施する予定である。
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