2016 Fiscal Year Research-status Report
戦時下の芸術専門教育――東京音楽学校の事例を中心に
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16K03039
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
橋本 久美子 東京藝術大学, 音楽学部, 講師 (70401495)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
折田 悦郎 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (10177305)
西山 伸 京都大学, 大学文書館, 教授 (30252406)
大角 欣矢 東京藝術大学, 音楽学部, 教授 (90233113)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 東京音楽学校 / 修業年限短縮 / 学徒動員 / 学徒出陣 / 戦時下 / 音楽 / 近代日本史 / 東京美術学校 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、おもに①学内文書等の記録調査と②聞き取り調査により、戦時下の東京音楽学校の状況を把握する基本情報を収集した。 ①の記録調査においては、生徒の卒業や入隊の情報を最優先に収集した。本研究では「戦時下」を昭和16年12月から昭和20年8月と設定し、この戦時体制の期間に東京音楽学校の予科・本科・師範科・研究科に在籍した男子生徒を対象とした。まず昭和13年入学から昭和20年入学の男子生徒名簿を作成し、入学、卒業、退学等の情報を各年度の成績関係書類や入学書類等より入力した。 ②の聞き取り調査を、戦時下に在籍した卒業生およびそのご子孫等10名におこない、写真、ノート類、作曲の自筆譜等を拝借した。また入隊経験を持つ東京美術学校卒業生1名、戦没画学生慰霊美術館「無言館」の資料室長にも話を伺った。インタビュー件数が予想を上回ったかわりに、録音の文字おこしは4割ほどにとどまる。 下記の進展もあった。1.記録調査と収集された資料等を、大学祭期間および学内で国際学会が行われた期間に展示し紹介した。2.楽譜類のデジタル化を進めている。3.11月に日本音楽学会にて西山伸研究分担者と共同発表、また12月に西山氏を講師に招いて研究会を行い、そこには研究組織と調査補助員の他、楽理科の土田英三郎教授と澤和樹学長も加わった。4.本研究に基づくシンポジウムと演奏会が、平成29年度の本学創立130周年の記念企画「戦没学生のメッセージ--戦時下の東京音楽学校・東京美術学校」の記念企画となり、戦没学生4名の作品が平成29年7月30日におこなわれる運びとなった。 東京音楽学校時代の学籍簿の存在が未確認であるため、周辺資料から断片的な記録をよりあわせている。しかし年度末に、在学中召集と出陣学徒について記された「入退学簿」が確認されたる。この簿冊調査により、29年度の早い時期に概要把握に近づくと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
4月以降、調査すべき学内資料の一覧を作成し、7月より卒業生へのインタビューを開始した。11月より研究補助員が生徒名簿の作成、文書記録ごとに情報を追加する作業を開始し、年度末には当初予定した程度の内容に近づくことが出来た。調査にあたっては、東京音楽学校時代の学籍簿が未確認のため系統的にまとまった資料がなく、入学書類、学年試験の記録、入退学休学書類など個別の資料からの情報収集と入力をおこなっている。 現在までに、予科・本科・師範科の生徒氏名の入力を終え、各人の退学・休学・入営情報について追記している。学生数、調査対象となる男子生徒の人数についても確定に近づいている。研究科生徒についても氏名の入力を進めている。インタビューは昨秋の申請時に想定したよりも多くの方々におこなうことができた。これはインタビューした相手から別の取材先を紹介されたためである。取材先から戦没者情報を得たほか、写真や楽譜類を借用することもできた。その結果、当初予定以上に収集量が多くなった録音の文字おこし、資料や情報の整理、デジタル化等の作業は遅れ気味である。 11月には日本音楽学会にて西山伸氏と研究発表をおこない、12月には学内で西山氏を招き、「学徒出陣」をめぐる制度的な問題と第三高等学校の事例を中心にレクチャーしていただく研究会をひらいた。入力にあたる調査補助員と学内の本研究メンバーのほか、澤学長と土田教授(楽理科)も大学が向き合うテーマとの認識により参加された。本研究課題が学内でも認識され波及効果をもたらしたことで、平成29年度の創立130周年企画として、戦時下を振り返るイベントにつながったと考える。総合的に「おおむね順調」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、①学内資料に基づく記録調査、②関係者インタビュー、③収集された資料および作品(作曲)のデジタル化、④収集された作品の演奏および音源作成、⑤シンポジウムと演奏会、⑥本研究のアーカイブ構築への検討、⑥成果公開と発進力の強化 などを予定する。 ①については「昭和13年以降入退学簿」より、予科・本科・師範科・研究科について情報を抽出して生徒名簿を作成し、入隊・復員・戦死等の記録を入力する。これにより調査対象の人数、在学中召集の人数、出陣学徒の人数が割り出せる見込である。②は7月の記念イベントとの関係で、8月以降に本格的におこなう予定である。③は現在進行中である。⑤は、本研究と音楽学部楽理科と演奏藝術センターの共同提案により東京藝術大学の創立130年記念企画として平成29年7月30日に学内で行う。④は演奏会で一部は実現するが、一度の演奏会で全作品の演奏は不可能なため、他にも演奏機会を探る。⑥については、大学史史料室が平成29年4月1日、内閣府より「歴史資料等保有施設」の指定をうけるのにあわせ、同日ホームページを開設した。今後は随時、ホームページを活用して調査報告なども公開していく予定である。⑥に類することとして、⑤で述べた創立130周年記念イベントにおいては、「戦没学生のメッセージ--戦時下の東京音楽学校・東京美術学校」と題するシンポジウムと戦没学生の作品演奏会を行うことが決まった。本研究による資料収集と記録調査に基づき、大学史史料室と音楽学部楽理科と演奏藝術センターの共同提案により、同センターの大石泰氏が統括する。シンポジウムには、本研究組織の西山伸、大角欣矢、佐藤道信の各氏、演奏会には、昨年度インタビューした大中恩(作曲家)と野見山曉治(西洋画家)両氏にご出演いただく予定であり、演奏録音に限らず資料収集から公開までのプロセスをアーカイブ構築する計画である。
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Causes of Carryover |
平成28年度の使用額において、当初計画と変更が生じた点について述べる。 遂行内容自体はおおむね計画に沿っていたが、他大学アーカイブズにおける公文書等調査を行う予定は実行できず、聞き取り調査に計上した旅費が、当初予定とは異なり仙台1件をのぞき東京都内および近辺に集中して少額で済んだこと、調査補助員への依頼が半年近く遅れたこと、関連図書の購入が進まなかったこと、などがある。 研究会についても、京都大学を想定していたところ、本学で行ったため、その旅費も今年度は使用しないこととなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度においては、地方数件の聞き取り調査、他大学アーカイブズの調査を予定し、また調査補助員による資料調査とデータ入力を開始している。 大学の周年記念イベントにおいても、本研究における調査等が基礎になり、収集資料のアーカイブ化等のにも遂行を計画している。28年度に行ったインタビューの録音の文字おこし等が遅れがちであり、29年度はその遂行にも使用を計画している。 本研究に基づくシンポジウムを当初計画に盛り込んでいたが、大学創立130周年の記念企画としてシンポジウムが行われることとなり、登壇者への謝礼および印刷代等は大学側が負担する予定となった。本研究においてはデジタル化、コンテンツ化、公開の加速に注力し、関連図書の購入も計画する。
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Remarks |
平成29年4月1日に、大学史史料室のホームページを本学藝術情報センターの嘉村哲郎氏の協力により開設した。ここに大学史史料室の史料画像をコンテンツとして日本語・英語の紹介文を付して公開している。29年度は本研究により収集した諸資料の画像、音源等も追加していく予定である。
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Research Products
(6 results)