2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K03075
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
太田 信宏 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (40345319)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | インド史 / 藩王国 / マイスール王国 / カンナダ文学 / 宮廷文学 / 植民地的近代 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、植民地インドの有力藩王国のひとつであったマイスール藩王国を対象として、現地語カンナダ語による文芸・学芸の展開をたどるとともに、それらの文献に見られる王の権威と権力をめぐる言説の分析を行うことを通じて、インド社会の植民地的近代における文化的変容のあり方を再考することを目的とする。 初年度にあたる本年度は、19世紀を中心としたマイスール藩王国におけるカンナダ語文芸・学芸の展開を概観するために、先行研究や文書館・図書館目録なども用いつつ、当該時期に著された具体的な文芸・学芸作品に関する情報を収集、整理した。また、インド現地におもむき、関連する文学作品や著作物について、調査、閲覧、収集を行い、収集した史料の分析にも着手した。これらの調査、分析から以下のような点が解明した。 第一に、藩王(政府)の直接・間接の支援下で展開したカンナダ語による文芸・学芸活動において、大学をはじめとする西欧的教育制度が導入された19世紀第3四半世紀は大きな転換期であった。世紀前半に多く見られた藩王の個人的な庇護を受けた宮廷詩人による文学作品の創作が衰え、教員などの教育関係者による教科書の執筆が活発化した。ただし、この変化がもつ歴史的含意を明らかにするには、世紀前半の文学作品と世紀後半の教科書を内容・形式や著者などの点から具体的に比較分析する必要がある。 第二に、19世紀前半の宮廷詩人による文学作品には、作者の主観に依拠した叙述・表現など、18世紀以前の宮廷文学と歴史的に連続する要素が見られる一方で、作中における王の過剰なまでの神格化や、作者=詩人の出自的背景の多様化など、18世紀以前の宮廷文学とは異なる特徴も認められる。植民地化前後の連続と不連続を多元的に把握することが求められよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該時期のマイスール藩王国内で書かれたカンナダ語文芸・学芸作品の具体的な情報を収集、整理する作業に、多くの時間と労力を費やすこととなった。また、作業の過程で、カンナダ語文芸・学芸の展開を、ペルシア語やウルドゥー(デカニー)語、サンスクリット語といったインドの他の言語による文芸・学芸と関連付けて把握する必要性・可能性が認識された。こうしたこともあって、今年度は、成果の一部を口頭発表するにとどまった。本研究が対象とするマイスール藩王国のカンナダ語文芸・学芸は、特に欧米での先行研究が乏しく、基本的な情報の収集、整理から行う必要がある。本年度の調査、分析をふまえて、当初計画通り、次年度以降、論文・研究ノートのかたちで研究成果を発表していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当該時期のマイスール藩王国内で書かれたカンナダ語文芸・学芸作品に関する情報の収集と整理を着実に進めるとともに、収集した作品の分析を本格化させる。特に平成29年度は、作品中に見られる王の表象、王の権力・権威や王と民衆の関係についての言説に着目し、この点について、19世紀前半の宮廷文学と同後半の歴史教科書の比較を行う。こうした分析から、植民地的近代における文化変容のあり方を再考する具体的な手掛かりが得られることが期待される。
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Causes of Carryover |
インド現地の図書館などでの文献調査を効率的に行うためにも、本年度は先行研究や目録を利用した情報の収集・整理を重点的に行った。インド現地での調査の期間を当初予定よりも若干短くしたため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度には、イギリス・ロンドンで関連史資料の調査・収集を行うことを当初計画していた。次年度使用額を、ロンドン出張関連の経費に充当することによって、集中的、かつ、効率的に調査・収集を行う。
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