2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K03156
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
大橋 泰夫 島根大学, 法文学部, 教授 (80432615)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 国府 / 郡衙 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目標は、国府・郡衙の実務施設や国司館が7世紀末から8世紀初頭頃に創設され、8世紀前葉以降に整備されていく点を、遺跡の構造・配置、出土遺物の分析を通して解明する点にある。 平成28年度については、当初の計画通りに、考古学的成果があがっている出雲国・常陸国・上野国などの地方官衙を中心に資料調査と検討を行った。出雲国については神門郡衙(古志本郷遺跡)周辺の建物群の検討が十分ではないので、この点を中心に遺構と出土遺物の検討を行うことにして、地元研究者の協力を得ながら行っている。また、移転前の大原郡衙(雲南市郡垣遺跡)についても発掘調査が行われており、その視察と検討を行った。さらに、出雲郡の場合、『出雲国風土記』に郡衙とは別に美談郷に正倉が別置された記述があり、青木遺跡との関わりがあると推定してきた。この点について遺構と遺物から検討を行い、みつかった建物の一部は正倉である可能性を示した(大橋泰夫『出雲国誕生』2016、吉川弘文館)。 常陸国についても、神野向遺跡(鹿島郡衙)、台渡里官衙遺跡群(那賀郡衙)、新治郡衙(新治郡)について検討を行うこととし、神野向遺跡については現地視察と資料調査を行い、実態の把握に努めた。台渡里官衙遺跡群、新治郡衙については発掘調査報告書を基にして遺構と遺物の整理を行った。 上野国府と郡衙についても国府推定地の前橋市内遺跡の視察および関連遺物の資料調査を行いつつ、あわせて佐位郡衙(伊勢崎市三軒屋遺跡)、新田郡衙(太田市天良七堂遺跡)、多胡郡衙(高崎市)の現地視察を行い、実態の把握を行った。その成果の一部については各地の郡衙事例とともにまとめた(大橋泰夫「総論 最新の郡衙研究」『考古学ジャーナル』692号, 2016)。 以上の地方官衙の現地視察や報告書の検討に加えて、発掘調査が行われた日向国府、讃岐国府などを視察し実態の把握を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の計画は、国府諸施設の形成過程の解明と郡衙諸施設の形成と展開の解明という二つの柱からなる。 国府諸施設の形成過程の解明については、当初の計画通りに国府と郡衙について古代の文献史料があり、考古学的にも発掘調査が進んでいる、出雲国・常陸国・上野国などの地方官衙を中心に資料調査と検討を行うことができている。とくに、国庁や郡庁周辺の諸施設について遺構・遺物の再検討を行い、実務施設の実態について、おおむね状況の把握を行うことができた。 郡衙諸施設の形成と展開の解明についても、当初予定していた出雲国大原郡衙(雲南市郡垣遺跡)の資料調査や常陸国内の神野向遺跡(鹿島郡衙)、台渡里官衙遺跡群(那賀郡衙)、新治郡衙(新治郡)、上野国内の佐位郡衙(伊勢崎市三軒屋遺跡)、新田郡衙(太田市天良七堂遺跡)、多胡郡衙(高崎市多胡碑関連遺跡)の現地視察を行うなど、実態の把握を行うことができた。とくに、上野国内の佐位郡衙(伊勢崎市三軒屋遺跡)については、これまで不明であった中心施設の郡庁とみられる大型建物の現地視察を行うことができ、正倉群との位置関係を把握できたことは成果の一つである。 また、郡衙諸施設の形成と展開の解明を行う上で、一郡内に複数の郡衙施設を検討する必要があるために、文献史料および発掘調査事例の集成作業に着手し、現在も作業途中である。 平成28年度については、以上のように当初の計画を行うことができており、順調に作業は進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度以降についても、基礎作業として各地の国府および郡衙遺跡の出土遺構・遺物の資料調査および現地確認を行う。その上で、総合的検討をすすめ、最終年度の平成31年度に研究成果報告書としてまとめる。 具体的な作業としては、遺構については報告書の検討が中心となる。出土遺物については、必要に応じて資料化を行う。その上で、遺構と遺物から総合的に検討し実務施設の実態を解明する予定である。 平成29年度については、当初の予定通りに文献史料は少ないが、発掘調査によって国府や郡衙の実態が明らかになっている、下野国・武蔵国・陸奥国・相模国などの地方官衙を中心に資料調査と検討を行うことにしている。下野国府については、国府北方でみつかっている建物群や出土遺物については分析が十分でないために、時期や機能、下野国府との関係を明らかにする。また、上神主茂原官衙遺跡(河内郡衙)、長者ヶ平遺跡(芳賀郡衙別院)などの分析を行い、下野国内の国府と郡衙との関係を検討する。武蔵国府では、遺構の実態を把握するために武蔵国府関連遺跡の資料調査を行う。また、武蔵国内の御殿前遺跡(豊島郡衙)・橘樹官衙遺跡群、幡羅遺跡(幡羅郡衙)の実務施設を中心に分析を行う。陸奥国については、郡山遺跡II期官衙の検討を行う。その上で、陸奥国内の郡衙・城柵の実務施設について検討する。とくに調査成果があがっている、泉官衙遺跡(行方郡衙)、赤井遺跡(牡鹿郡衙)、東山官衙遺跡(賀美郡衙)について、遺構と遺物(土器・瓦・硯)の検討を行う。この他、相模国や下総国などの東日本の地方官衙遺跡についても、国府関連遺跡や郡衙の検討を行う。 加えて、発掘調査が実施された地方官衙遺跡があれば、現地視察によって状況の把握を行う。平成28年度に続いて、一郡内に設けられた複数の郡衙施設について、文献史料および発掘調査事例の集成作業を行う予定である。
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