2017 Fiscal Year Research-status Report
日本列島無文字時代の国制と法――国制史・法制史学と考古学の対話――
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16K03271
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
水林 彪 早稲田大学, 法学学術院, 特任教授 (70009843)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 考古学 / 文献史学 / 弥生時代 / 古墳時代 / ヤマト政権 / 王権 / 非王権的同輩盟約体 / 卑弥呼 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)2017年5月27日に纏向遺跡、7月7日に纏向遺跡(2度目)・馬見古墳群、11月24日に日向市の古墳群などの調査・見学を行った。(2)2017年6月2日に開催された法制史学会におけるシンポジウム「ヤマト政権=前方後円墳時代の国制とジェンダー―考古学との協同による、人的身分制的統合秩序の比較研究の試み」を企画し、かつ、そこで、私自身は以下の報告を行った。「広瀨・清家両報告に学ぶ―ヤマト政権=前方後円墳時代の国制像の革新」。上記シンポジウムの各報告・コメントは、法制史学会機関誌である『法制史研究』67号(2018年6月刊行予定)に掲載されることとなり、私は、同名の論文を寄稿した(A論文)。(3)水林彪・青木人志・松園潤一朗編『法と国制の比較史ー西欧・東アジア・日本』(日本評論社、2018年5月刊)に、「卑弥呼・台与政権論ーー日本国制史における〈反civil〉の起源(B論文)」と題する論文を寄稿した。 シンポジウム報告・A論文およびB論文では、考古学に学びつつ、考古史料と文献史料の双方に立脚し、それを国制史学の観点から総合して、新しい歴史像を提起した。その概要は次のようなものである。①弥生末期(2世紀後半)の列島の国制は、北九州、出雲・伯耆・但馬、丹後、吉備などの諸地域に、古代首長層の非王権的盟約体(中世の国人一揆のごとき権力体)が展開していたこと、畿内にはそれに相当するものが存在しなかったこと、②3世紀に入って、突如として、列島的規模において、大和の「邪馬台国」を中心とする統一的政治秩序(卑弥呼王権)が形成されるが(前方後円墳体制)、これは、中国王朝(公孫氏、ついで、魏)の強力な帝国主義的支配によってもたらされたものであること、③4世紀い入って、中国の外圧が後景に退くや、〈王権〉は溶解状態になり、かわって、ふたたび、〈非王権的同輩盟約体〉的国制になったこと。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
考古学者のご教示・ご指導のもとに、多くの史跡見学を積み重ねることができ、無文字時代の国制を、実感をともなって理解できるようになっている。一昨年から昨年にかけて、入院を何回か経験し、この点では、史跡見学の数は、計画していた数よりも少なかったが、1回ごとの質は予想以上に高く、私の中では、ヤマト政権=前方後円墳時代の国制の理解が飛躍的に進んだ。 その結果、ヤマト政権時代の国制について、これまでの通念とは異なる見解に到達した。その概要は先に、「研究実績の概要」に記した通りである。特に、(1)ヤマト政権(卑弥呼王権)の成立に、中国王朝(公孫氏、ついで魏)の帝国主義的支配が決定的であったころ、(2)前方後円墳という独特の墳墓形式は、中国の天壇(円丘)に由来するものであるらしいこと、(3)前方後円墳祭祀=卑弥呼の「鬼道」は、ヤマト政権の正当性を儀式化する意味を有していたこと、などの結論を得たことは、想定以上の成果であり、その意味において、「当初の計画以上に進展している」と評することができると感じてしる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.ひきつづき、古墳の調査・見学を続ける。これまでも調査・見学した地域であるが、その重要性から、北九州と吉備を再訪した。しかし、その前に、丹後地方の見学を試みたい。考古史料と文献史料との突き合わせから、卑弥呼の率いる倭国と戦争状態にあった狗奴国は丹後地方を拠点とする一代勢力であったのではないかと考えるにいたったので、その丹後地方の史跡を実見することを、見学の第1の課題としたい。 2.前方後円墳の由来は、中国の天壇(円丘)にあるのではないかと考えるいいたったので、来年度以降の科研費応募の課題の一つに、中国(およびそれとの関連での朝鮮半島)の史跡見学をテーマとするものを考えたい。 3.これまでの研究は、おのずと、弥生末期からヤマト政権成立期に焦点が定められたが、今後は、その国制の変容を跡づけるために、ヤマト政権時代中期(4~5世紀)そして後期(6世紀)へと視点を拡大していきたい。
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Causes of Carryover |
2017年に、3回の入院をしなければならないという想定外のことが起こり、当初の計画よりも、史跡調査・見学の回数が少なくせざるをえなかったため、翌年度への繰り越しとさせていただいた。
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Research Products
(3 results)