2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K03500
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
市川 喜崇 同志社大学, 法学部, 教授 (60250966)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 地方分権 / 地方六団体 / 地方制度調査会 / アイデアの政治 / 政策コミュニティ / 下位政府 / 第3次行革審 / 自社さ政権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、分権改革の政治過程の全般的な解明を試みるものである。分析枠組としては「政策コミュニティモデル」に依拠する。理論としては「アイデアの政治」を用い、財界が分権改革を支持した理由の解明に努める。その上で、従来の地方制度調査会とは異なる新たな制度装置である地方分権推進委員会が創設されたことを重視し、その制度設計時が村山・自社さ政権であったことが改革の実現を大きく規定したとの立場を打ち出す。既存の研究とは異なり、これまで挫折を繰り返してきた分権改革の「挫折の構造」を明確に特定することによって、なぜ他の要因ではなく上記の要因が重要であったのかを説得的に主張しようとするものである。 3年間の研究期間の初年度にあたる平成28年度は、「アイデアの政治」の理論動向の把握と、分権改革の初期の政治過程の分析に当たった。 はじめに、本研究が依拠する「アイデアの政治」の理論動向の把握に努めた。「アイデアの政治」に関する日本語や英語による紹介論文に当たり、また、この理論を用いた実際の研究業績等を読み込み、本研究が依拠すべき理論枠組の確定へ向けた予備作業をした。 次いで、分権改革に道筋をつけることになったと本研究が考える第3次行革審路線の形成過程の把握に努めた。本研究は、第3次行革審路線の独自性を主張し、この路線の中から地方分権というアジェンダが形成されたと考える。そこで、新聞・雑誌記事や当時の財界人の著作などの読み込みを通じて、通産省系の審議会や経団連の動向などに注目しつつ、1980年代後半における貿易摩擦の激化の中から「ゆとりと豊かさ」路線(第3次行革審路線)が形成されていく過程を跡付けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度は、主として、(a)「アイデアの政治」の理論動向の把握と、(b)分権改革の初期の政治過程の分析に当たる予定であった。(b)については、その前半部に当たる(1)第3次行革審路線の形成過程の追跡を終えたのちに、後半部の(2)第3次行革審路線の中から分権改革のアジェンダが浮上してくる過程の追跡を行う予定であった。 このうち、(a)については、当初の見通しどおりに研究が進んだ。(b)については、前半部の(1)についてはほぼ予定の作業を完了したが、後半部の(2)については、上記(a)と(b)(1)に当初想定した以上の時間を費やすことになったため、十分な作業を行うことができなかった。 (a)「アイデアの政治」の理論動向の把握に関しては、日本語や英語による紹介論文や、この理論を用いた実際の研究業績等の読み込みが重要であるが、進捗状況は概ね良好であり、本研究が依拠すべき理論枠組の確定へ向けた見通しを得るに至っている。 次いで、(b)分権改革の初期の政治過程の前半部に当たる、(1)第3次行革審路線の形成過程の追跡に関しては、新聞・雑誌記事や当時の財界人の著作などの読み込み作業が予定どおり完了した。 分権改革に対する財界の支持について、これまで、財界は分権に事寄せて行政減量や地方への負担転嫁を狙っていたとの見解が有力であったが、本研究はこれを斥け、「アイデアの政治」による説明を試みるものである。1980年代後半に貿易摩擦が激化する中で財界自身がその形成に与った第3次行革審の「ゆとりと豊かさ」路線が、財界の利益認知を変え、財界を一時的に分権支持に変えたとする仮説をとるものであるが、その論証について、一定の見通しを得るに至っている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度における研究実績を踏まえて、29年度以降は、分権改革の前期の後半、および中期と後期の分析に当たる。 はじめに、第3次行革審路線の中から地方分権というアジェンダが浮上してくる過程について、新聞・雑誌記事や当時の財界人の著作などの読み込み作業を行う。 次いで、地方分権推進委員会(以下「分権委」と略称)の創設と委員人選に至る経緯を分析する。分権委という構想が登場し、それが政府で検討され、設置が決まり、委員の人選が行われるまでのプロセスを検証する。筆者の現時点での理解は、当時の政権が社会党首班の村山内閣であったことが地方自治政策コミュニティにとって有利な制度配置をもたらしたというものである。この暫定的な理解を手がかりに、当時の新聞・雑誌記事、証言、手記などの読み込みや、存命の関係者などへのインタヴュー等の手法を用いつつ、当時の閣僚や族議員らの言動や地方六団体などの諸団体の動向に焦点を当て、分権委の設置と委員の人選に至る過程を追跡・検証する。 続いて、分権委による審議および勧告の作成、分権委と各省庁の交渉、自民党による勧告の受入れ過程、および法案の作成、国会審議過程を分析する。財界と世論の支持、また分権委の創設により、この段階で、分権改革の一定の成功の条件はすでに揃っていた。とはいえ、分権委の設置根拠であった地方分権推進法は、分権改革の数ある課題の中から分権委が何をどう取り上げるべきかについて、必ずしも十分に特定するものではなかった。この点で、分権委は、与えられた項目をただ審議すればよい通常の審議会と異なっていた。そこで、分権委の判断と選択に焦点を当てて分析することにする。首相、省庁、族議員などの動きを踏まえつつ、分権委の判断、およびそれに対する他のアクターの反応をめぐる政治過程を、当時の新聞・雑誌記事、分権委の残した関連資料や委員の証言・手記などをもとに検証し、分析する。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では、平成28年度は、主として、次の3つの部分に関して研究を進める予定であった。(1)「アイデアの政治」の理論動向の把握、(2)分権改革の初期の政治過程の前半部(第3次行革審路線の形成過程)の把握、および(3)分権改革の初期の政治過程の後半部(第3次行革審路線の中から分権改革のアジェンダが浮上してくる過程)の把握である。このうち、(1)と(2)については、当初予定した計画がほぼ完了した。(3)については、(1)および(2)に当初想定した以上の時間を費やすことになったため、十分な作業を行うことができなかった。 これを反映して、平成28年度における当初計画額の50万円(直接経費)の約3分の1に当たる約18万円が未執行となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記のとおり、平成28年度の研究計画であった3つの部分のうち、(3)分権改革の初期の政治過程の後半部(第3次行革審路線の中から分権改革のアジェンダが浮上してくる過程)の把握については研究を進めることができず、約18万円が未執行となった。この部分の研究については、平成29年度に行うこととし、それに必要な経費である上記の約18万円については、平成29年度の当初配分額と合わせて執行することにしたい。 平成29年度の研究としては、このほか、当初から計画していた分権改革の中期・後期の政治過程の把握がある。これについては、上記(3)の作業の終了後に取り掛かることとする。 具体的な作業としては、上記(3)についても、当初計画部分についても、当時の新聞・雑誌記事、証言、手記などの読み込みや、存命の関係者などへのインタヴューなどである。そのために、物品費(図書購入など)、旅費、人件費・謝金などが必要となる。
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