2017 Fiscal Year Research-status Report
18歳選挙権時代のネット選挙:サイバースペースにおける選挙競争環境の変容
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16K03503
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
岡本 哲和 関西大学, 政策創造学部, 教授 (00268327)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石橋 章市朗 関西大学, 法学部, 教授 (40368189)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | インターネット選挙 / 18歳選挙権 / ネット政治 / 政治情報 / 投票行動 / メディア政治 / 日本政治 / 情報政治学 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度においては、2016年度に実施した参院選調査の分析結果も含めた研究成果を、岡本哲和『日本のネット選挙: 黎明期から18歳選挙権時代まで』(法律文化社、2017年)として研究代表者が出版した。2016年参院選については、18歳・19歳・20歳台と30歳以上の年齢層との間には、インターネット情報との接触から受ける影響に関して目立った違いは見いだせないことが示された。ただしツイッターについては、30歳以上の人たちと比べると19歳と20歳台の人たちは候補者によるツイートからの影響を受けにくいことが明らかになった。 加えて、(a)10代有権者によるインターネット利用が投票意思決定に及ぼした影響についての2017年衆院選時有権者調査、(b) 2017年衆院選選挙候補者によるインターネット利用状況の把握、の2つの作業を実施した。 (a)については、2017年衆院選についての情報にインターネットを通じて接触した経験がある1031名をサンプルとして、インターネットによる選挙情報の獲得行動とその影響についてのネット調査を行った。そのサンプルのうちの35.0パーセントが10代有権者である(18歳が176名、19歳が185名)。現時点では、候補者ウェブサイトとの接触理由を取り上げれば、「どの候補者に投票するかを決めるときの参考にするため」との回答比率は、18歳および19歳有権者で57.2パーセント、20歳以上では64.9パーセントとなっている。候補者ウェブサイトについては、他の年齢(層)よりも10代回答者の方が投票意思決定を目的として接触を行う割合がやや少なかったことが明らかにされた。(b)については、それらの内容と18歳選挙権との関連に関して、2016年参院選時のデータと併せて今後分析を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度当初は、本年度における衆議院解散・総選挙の可能性は低いと予想していたが、事態は急転して10月22日に総選挙が実施された。この事態への対応として研究費の前倒し請求を行い、その結果としてインターネットでの選挙情報との接触が及ぼす影響についての有権者調査及び衆院選候補者によるインターネット利用実態についての調査を問題なく実施することができた。これにより、選挙権年齢が18歳へと引き下げられて実施された初めての衆議院選挙についての貴重なデータを入手することができたことは当初の目標どおりである。また、2017年衆院選は、ネット選挙解禁後に実施された2回目の衆院選である。これについて、研究代表者及び研究分担者が科研費によって実施した2014年衆院選についての有権者調査と比較可能な調査結果も得られることとなり、新たな知見が見いだされる可能性は高まったといえる。 現時点までの分析作業では、インターネットをつうじた選挙情報との接触行動に関して、接触理由については10代有権者とそれ以上の年代の有権者との間で異なる傾向があること、またその傾向は、ウェブサイト、ツイッター、Facebookの間でやや異なるものであることが明らかになった。10代有権者が初めて投票することになった衆議院選挙で、このような調査結果が示された意義は大きいと考える。ただし、2017年衆院選では10代有権者による投票意思決定を目的とする選挙情報との接触がやや消極的になるなど、2016年参院選時とは少し異なった傾向も見いだされている。これが政権選択選挙となる衆議院選挙と二次的選挙である参議院選挙との違いによるものか、あるいは他の要因によるものかは今後の分析課題となる。以上のように計画に沿った形で、おおむね順調に研究は進められている。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度においても前年度までと同様に、18歳選挙権時代後の選挙関連データと、われわれが蓄積してきた18歳選挙権時代前とのデータとの比較によって、選挙権年齢の引き下げがもたらした結果についての多面的な分析を行っていく予定である。当面は2017年衆院選に際して実施した調査データの分析によって、インターネットをつうじた選挙情報との接触状況、接触理由、接触効果の点で、10代有権者とそれ以外の有権者との違いが見いだされるのかどうか、また、2016年参院選では投票率の差において注目された18歳と19歳との違いが上記の3点においても見いだされるのかどうか、さらに二次的選挙である参院選と政権選択選挙である衆院選との間では何らかの違いが見いだせるかどうかについての検証作業を進めていく。基本的には、研究の推進方策については変更はない。 これに関して、2018年度中に衆議院が解散されて総選挙が実施される場合には調査を実施する必要があるため、研究計画の変更も生じうる。しかし、前年の2017年に衆議院が解散されたこと、そして現時点での政治的な状況を鑑みれば2018年度中に衆議院選挙が実施される可能性は低い。もし衆議院が解散されたとしても、調査項目は2017年衆院選とほぼ同様のものとなるため、調査実施の面では十分に対応できる。予算面でも、2017年衆院選調査と比較してサンプル数と質問数を再調整する必要があるものの、対応は可能である。 2018年度中には総選挙は実施されないと高い確率で予想が可能である場合には、当初の計画通り地方議会選挙での調査を実施する。どの地方選挙で実施するかは、選挙のタイミング及び自治体規模(ある程度人口規模の大きな市を予定)等を考慮して、できる限り早い段階で決定する。
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Causes of Carryover |
政治状況の急激な変化により、当初は実施の可能性はきわめて低いと予想された衆議院の解散・総選挙が2017年度に実施されたため、インターネット利用が有権者の投票意思決定に及ぼした影響についての調査を前倒し請求によって実施することができた。これに関して、衆議院の解散・総選挙のタイミングが不確定である一方で、当初予定していた2017年度の研究支出計画を実行していく必要があった。すなわち、総選挙の時期が後になるほど、2017年度分の研究費から総選挙に係る調査に支出できる金額は少なくなることとなる。それゆえ、前倒しの金額をやや多めに請求して、調査実施へのリスクを軽減するようにした。結果的に衆院選調査の時期が10月後半となり、その分だけ次年度使用額が0とはならなかった。 上記の理由により、次年度使用額は本来は2018年度に支出予定であった分であり、本来予定されていた地方選挙における有権者および候補者によるインターネット利用についての調査実施のために支出する。具体的には、平成30年度の「人件費・謝金」分に、今回の次年度使用額を合わせて使用する。 また、2018年度中に衆議院が解散された場合にも同様に、2017年衆院選調査と比較してサンプル数と質問数を再調整して、今回の次年度使用額を平成30年度の「人件費・謝金」分と併せて使用する予定である。
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