2018 Fiscal Year Research-status Report
経済主体の位置づけから見たケインズ・ハイエク・フリードマンの資本主義観の再考
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16K03576
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
廣瀬 弘毅 福井県立大学, 経済学部, 教授 (20286157)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉野 裕介 中京大学, 経済学部, 准教授 (00611302)
江頭 進 小樽商科大学, 商学部, 副学長 (80292077)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 自由主義 / ハイエク / フリードマン / ケインズ |
Outline of Annual Research Achievements |
1980年代に自由主義の思潮が強まり、いわゆる「反ケインズ」の時代が来たと言える。しかし、それまでの主流派の位置をケインズ経済学から突然反ケインズである新しい経済学が占めるに至ったわけではない。理論的な転換点と、人々の思想的な転換点と、政策的な転換点を分けて考える必要がある。そこで、この交代劇に、理論の持つヴィジョンの転換と方法論上の転換があったのではないかという仮説を立て、検証した。具体的には、市場経済の運行に対する信頼性というヴィジョンの次元では、ケインズとフリードマンで大きな差があったものの、方法論的には必ずしも両者が大きく対立していたわけではない。むしろフリードマンの方法論的道具主義とルーカス以降の先験的な「方法論的個人主義からの理論構築」のみを堅持しようとする新しい古典派経済学の方法論の立場が、大きな懸隔を生んでおり、また新しい古典派経済学の特徴を生み出す大きな要因となっていた。 このことは、さらに派生的にいくつかの検討課題につながった。政治的自由と経済的自由の両立性は、フリードマンら新自由主義者がかねてより主張してきた命題であるが、昨今の技術的条件(ビッグデータ等の利用)は、必ずしもそれが成り立たなくなりつつあることを示唆している。これは、市場の優位性というヴィジョンの転換をもたらすかもしれない。また、そもそも政治的自由と経済的自由といった場合の「自由」についても、一度19世紀の政治的状況(イギリスの自由主義時代)にまで戻って再び再検討を必要とすることが明らかにされた。 我々の研究は、研究手法も研究主題も特に目新しいものではない。しかし、今一度現代の問題意識からそれらを捉え直すことで、新しい古典派経済学が大きな影響を与えている現代の経済構造(構造改革など)に対する新たな批判的視点を、ある程度提供できたのではないかと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は、1980年代からの新自由主義への転換について、(1)理論的な視座(方法論とヴィジョンの分離による「2段階の反ケインズ革命」)を手に入れたと考えている。また、この研究結果は、これまではハイエクやフリードマンら自由主義の立場からは、当然とされてきた(2)政治的自由と経済的自由の両立性について、新たな批判的視点をもたらすことができた。例えば、従来は個々人を特定化することなく、匿名性のある局所的な情報で社会全体が動いているという想定が当然とされてきたが、これが崩れつつある。これは、中国の市場主義的社会主義だけを対象とするのではなく、先進国においてもいわゆるGAFAのような情報を管理する主体が持つ、取引促進的な効果と個人的自由の抑制効果について、我々が考える際の視点になると考えている。 また、(1)、(2)のような視点から、もう一度「自由論」を考える意義が見いだせた。これらの論点については、まだ刊行こそされていないが、2018年度の進化経済学会でセッションを組んで報告することが出来た。そこでは、我々の見解に対して必ずしも、好意的な発言ばかりではなく、むしろ批判的な意見も出された。だが、批判的な意見も、我々の採り上げた論点が無意味だというものではなく、論点に対する我々の解答に対するものであった。このことは、逆に言えば、(もちろん批判的な意見を参考に、まだ練り直す必要があると真摯に受け止めていることが言うまでもないが)我々の研究の方向性も、それなりに、意味のあるものと評価されたのではないかと、考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに述べてきたとおり、(もちろん、思想家・理論家個人に焦点を絞るのではなく、その時代の思潮全体に目を配るという点ではそれなりの試みであったが)我々の研究手法は比較的オーソドックスなものであったと理解している。すなわち、関連する文献にあたり、仮説を検証していくスタイルである。だが、我々の扱った主題は、現代的意義が大きかったと自負している。それは、この21世紀の各国の経済改革の方向性に対して、今なお大きな影響力を持つ内容だったからである。例えば、1980年代の新自由主義の台頭にしろ、リーマンショック以降のケインズ復権にしろ、今の社会の政策的枠組みを構成する上で、無視できないことは言うまでもない。 そこで、今後は少し目先を変えて、新自由主義とかケインズ主義と言った「思想」や「理論的枠組み」が現実の政策策定に、どのように影響を与えたのかについて、分析していくことにしている。その際、理論家・思想家同士の影響関係を分析するためにそれぞれの論点や引用関係を調べる「定性的」な方法では限界があるのではないかと考えた。というのは、実際の政策策定の現場では、委員会や審議会等で「官僚」らの政策を誘導する方向性が事実上表に出てくると考えられるが、そこには特定の思想家・理論家の名前が出ると言うよりも、匿名の形であったり集合的な意見として集約されている可能性があるからだ。そうであれば、我々は新たにテキストマイニングなどの手法を用いて、定量的に思想の影響を計る方が適切なのではないかと考えた。 そこで、次の研究プロジェクトでは、こうした新たな解析方法に明るい研究者を迎え、(1)自由主義思想の定量的な影響の把握と(2)定量的把握の分析手法の検討、という2つの次元での研究課題を挙げて、取り組むことにした。
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Causes of Carryover |
昨年度末(2019年3月)に開催された第23回進化経済学会名古屋大会において、特別セッション「経済主体の位置づけから見たケインズ・ハイエク・フリードマンの資本主義観の再考」を設け、3人でこれまでの研究成果を報告することが出来た。そこで批判的コメントも含め、いくつか検討すべき論点を得たので、これを反映させた形で、何らかの形で公刊(さしあたっては投稿論文)することを考えている。しかしながら、最終年度の3月ぎりぎりのタイミングであったため、公刊に向けたその打ち合わせや必要となった書籍の購入などのため、一部を次年度使用額として残すことになった。できれば、今年度の早いうちに目処をつけたいと考えている。
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Research Products
(8 results)