2018 Fiscal Year Research-status Report
製糸金融における倉庫の役割~諏訪倉庫からみる第十九銀行の繭担保融資
Project/Area Number |
16K03795
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Research Institution | Gakushuin Women's College |
Principal Investigator |
金城 亜紀 学習院女子大学, 国際文化交流学部, 教授 (00636946)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 担保 / 産業金融 / 倉庫 / 製糸業 / 動産 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は製糸産業の拠点であった長野県諏訪地方において、大正から昭和初期に倉庫と銀行がどのように協業して製糸家の繭購入資金を供給したかを倉庫会社を軸に明らかにすることを目的とするものである。研究は、同地方の代表的な地方銀行であった第十九銀行(現八十二銀行)並びに同行と密接な関係にあった諏訪倉庫株式会社(以下「諏訪倉庫」)が有する原史料の収集と分析を中心に進めている。具体的な研究項目は①経営的側面:繭担保の機動的な出し入れを可能にする一部出庫制度など、②金融的側面:担保となった繭の増減に応じて融資が変動する仕組みなど、③法的側面:倉荷証券をもちいることにより動産を担保にしたスキームなど、の解明を3つの柱としている。 平成30年度の研究実績計画では法律、金融、経営のそれぞれの側面から論文を執筆し、当該分野に最もふさわしい学術誌に投稿し査読付き論文として掲載されることを目指すとした。これに関し、査読付き論文は残念ながら刊行できなかった。しかし、これまでの研究成果を英語で国内外で発表することができた。具体的には後述するようBusiness History Conference(米国バルチモア市)並びに第54回経営史学会の国際セッションでの発表・司会、さらには本務校紀要および英文書籍の担当章の刊行である。日本の一地方における20世紀初頭の繭担保融資が海外の研究者から少なくない関心を受けるのはなぜか。それは、倉庫というプラットフォームに倉荷証券という法技術を用いることにより動産の担保化が実現できることの普遍性、さらにはそれが貸手である銀行の情報生産機能を高め結果として日本のみならず他国における近代化に貢献したことが認識されて始めているからと思料する。それを励みに一層研鑚を重ねて参りたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
学術研究においては当初予期しないことが起こる可能性を考慮して保守的な研究計画を立案したものの、遺憾ながら進捗はやや遅れていると言わざるを得ない。その主たる理由は、校務(学科主任)が予想以上に増加したことに加え学術専門誌の編集業務が生じたため研究に充当できる時間が予定よりも減じたからである。他方、諏訪倉庫を中心として原史料の特定、整理、分析は進んでおり、これはひとえに同社が本研究の意義に賛同され全面的に協力いただいているからに他ならず非常に感謝している。来年度は本研究の最終年度にあたるため、これまでの遅れを取り戻しながら総仕上げにかかりたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策について大きな変更はない。しかし、ありがたいことに予想以上に本研究には展開力があり国内外の関心も高い。そこで、来年度は他の研究者と積極的に交流をはかり忌憚のない批判を受け研究をさらに推進することに注力したい。具体的には、まずは国内外の学会での発表である。すでに6月に進歩経済学会で「担保史」のパネルを実施し銀行が倉庫を活用することにより動産の担保化に成功したことの意義についての意見を述べ、セッションの総括を行う予定である。さらに8月はEuropean Business History Association(ロッテルダム)において「金融のイノベーション」の観点から口頭発表を行う予定である。懸案の英語論文も現在執筆中であり7月までに学術誌に投稿し査読付き論文としての刊行を目指す。また、本研究で得られた新たな学術的「問い」をいかに次の研究に結びつけるかも考えたい。現時点は、そもそも銀行と倉庫が機能としては一体でありそれが日本においてどのような理由と過程を経て分化したのか、さらには法的にはアンバンドルしたものの実態としては一体であったことの意義が重要なテーマになると考えている。それは担保という軸で経営史・金融史を再構築していく上でも重要な論点でもある。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、本年度において当該研究に充当する時間が予定よりも減じたからである。それは来年度において遅れを取り戻すために充当することと致したい。
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[Book] Kaleidoscopic Views of Japan2019
Author(s)
Yasuhiro Ishizawa, Keiichi Hatakeyama, Aki Kinjo, Yukiko Ito, Tadashi Uchino, Kuniharu Tokiyasu, Yuka Utsunomiya, Mizuko Ugo, Mikitaro Shobayashi, Toshiyuki Omomo, Mika Koshizuka, Reiko Takahashi
Total Pages
158 (担当章30-44)
Publisher
Gakushuin Women's College