2016 Fiscal Year Research-status Report
自動車部品産業が有する技術的優位性とインダストリー4.0との適合性に関する研究
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16K03860
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
光山 博敏 信州大学, 学術研究院総合人間科学系, 特任准教授 (30735634)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ドイツマイスター制度 / ミッテルシュタント / 知見のオープン化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ドイツが国策として推進するインダストリー4.0と我が国のものづくりの競争力の源泉の一つである自動車産業が有する製造技術的、取引構造的ケイパビリティ間のシステム適合性の有無を明示し、新規性の高いビジネスモデル構築に向けた応用展開を試みることを目的としている。 今年度は、インダストリー4.0が実際にどの程度進捗し、如何なる成果をもたらしているのかを明らかにするため、ドイツの大手自動車メーカーを中心に聞き取り調査を実施した。ここまでの研究を通じて明らかになったことは、ある大手自動車メーカーで一部同プロジェクトが散見されたものの、我が国で大々的に喧伝されているようなドイツの一大プロジェクトとしての盛り上がりや進捗が確認できなかったことである。こうした実情の背景には、ドイツの製造業が大切に守ってきたマイスター制度やドイツ経済の屋台骨でもあるミッテルシュタント(中小中堅企業)のコミットが必ずしも一枚岩となっていないことが影響していると推察された。企業はそれぞれ異なる育ち方で成長するものであり、それゆえ差別化できる強みが醸成される。この点を鑑みれば、企業が長期に渡り守ってきた差別化の源泉となる経済価値を、リスクやメリットが未だ不透明な通信プロトコルの標準化という政府主導のプロジェクトに委ねることへの抵抗が小さくないことは想像に難くない。特に同プロジェクトは、欧米企業で顕著なトップダウン型の組織マネジメントではうまく機能しても、日本企業のようなボトムアップ志向の強い現場知見蓄積型組織マネジメントが機能してきた国ではうまくフィットしない可能性が高いと言えるかもしれない。とは言え、本プロジェクトは道半ばであり、結論を導出するのは拙速である。この点を踏まえ29年度は、日本メーカー側を中心とした調査研究を進め、動的な本プロジェクトの本質の理解を深化させたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ドイツが当初掲げたインダストリー4.0の内容は日を追うごとに変化している。例えば、ドイツ政府はこれまで、アメリカ企業が有するクラウドコンピューティング分野の実力差を認識しつつも、通信プロトコルレベルでの標準化に成功することで各企業がデータの出し入れを行う際に使用するクラウド先に関係なく、ドイツ企業によるCPSの一定の競争力維持が可能になると考えていた。しかしながら最近では、より高い付加価値の獲得に際し、局所的バリューチェーン内の効率化だけでなく、IoTを起点とした顧客ニーズに根ざした付加価値創出の重要性を指摘し始めている。こうした点は、CPU、OSに加え、クラウドコンピューティングをベースとしたICTプラットフォームを米国企業(Google、Microsoft、Amazon、IBM)が独占している実情やドイツ連邦政府経済エネルギー省の研究報告書の文言からも推察できる。つまり、これまで注力してきた工場の自動化を進めるよりも、製造工程をつかさどるバリューチェーン外の市場環境を注視した新たなビジネスモデルの構築および付加価値創出の重要性が指摘されるようになっていることから、当初のコンセプトがここに来て大きく揺らいでいることが明らかになりつつある。引き続き、現地での情報収集に努め、臨機応変に対応していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
ドイツにおけるインダストリー4.0の進捗が進まない、あるいは徐々に方針が転換されていく場合、2年目以降の調査対象先にも変化を持たせる必要が出てくるであろう。つまり、今後ドイツのインダストリー4.0というプロジェクト内容が変化し、アメリカ企業を中心としたインダストリー・インターネット寄りのコンセプトに収斂していく場合、研究対象企業をドイツからアメリカ企業へシフトさせるなどの措置を取らざるを得ないかもしれない。しかしながら、こうした状況はプロジェクトの本質自体が変わるわけではなく、データ収集先が変更するに過ぎないことを示唆しているに過ぎない。こうした点を踏まえ、まずは我が国でインダストリー4.0の主導的役割を果たしている企業への聞き取り調査を進めながら、必要であればアメリカでインダストリー4.0に類似の取り組みを推進している企業への調査も視野に入れながら、研究を進めたいと考えている。つまり、29年度当初の研究計画で示した、インダストリー4.0を先進的に取り入れ、咀嚼しながら自社仕様に変換している日本企業への聞き取り調査をメインに考えつつも、上記のようにドイツ側のコンセプトやプロジェクト内容の変更次第では、IoT分野で先行しているアメリカ企業(GEやボーイングに加え、ハーレーダビットソンなど)への聞き取り調査も含めた対応を講じたい。
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