2017 Fiscal Year Research-status Report
自動車部品産業が有する技術的優位性とインダストリー4.0との適合性に関する研究
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16K03860
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
光山 博敏 信州大学, 全学教育機構, 特任准教授 (30735634)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 固有技術 / 歴史的経路依存性 / 通信プロトコル標準化の限界 / 持続的競争優位 |
Outline of Annual Research Achievements |
インダストリー4.0の肝である、通信プロトコルの標準化・共通化の実現には、工場レベルあるいは装置間レベルで互いがシームレスにつながる安定接続性を確保することが絶対条件であり、異なるメーカーの生産機械及び周辺機器メーカーが標準規格に賛同し対応していくことが必須である。 調査を行ってきた結果、インダストリー4.0の進捗状況は「ほとんど空想の段階にとどまっており、実態は空中分解し始めている」という事実が否定できない状況が明らかになっている。例えば本来、他企業との差異にこそ競争力の源泉が宿る重要な部分であるにもかかわらず、通信プロトコルの標準化を推し進めることはつまり、各企業が有する固有の強みを放棄せよということを意味し、これまで構築してきた競争力を無力化する政策でもあることがその主な要因となっている。 スマートファクトリー化の実現には課題が山積している。例えば、好調なドイツ経済下において、目先の好調な需要に対応しながら適宜、インダストリー4.0というこれまでの経験則を活用しにくい技術思想や大きな設備投資、あるいは協力メーカーをも巻き込んだ新たな製造技術的ノウハウの積み上げなどを具現化しなくてはならない点で、その実現は机上で考えるよりも難度の高いことが顕在化しはじめている。通信プロトコルの標準化を困難にさせている一つの要因は、その時々に直面した課題克服のなかでそれぞれのシステム階層が個別に進化、部分最適化が進んできたためである。固有の競争力や技術の積み重ねの結果、現在の異なる通信方式やアプリケーションインターフェースが多数生まれ、競争しながらも共存してきたことを鑑れば、国や産業ごとに標準化された手法で企業の競争力強化を実現することがいかに困難なことかがわかる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
早い段階で、当該プロジェクトの概念的具現化可能性が低いことを明らかにすることができた点で計画以上に進捗させることができている。 しかしながら、本研究の難しいところを一言でいえば、まさに現在進行形で技術が進歩している点であり、その意味においては当初計画していたアンケート調査はあまり意味をなさない可能性があり、新たなアプローチも視野に入れる必要があるかもしれない。今後も現場を中心としたフィールドワーク研究を中心に据えることで、急激な環境変化にも適宜迅速に対応することの必要性を感じている。
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Strategy for Future Research Activity |
計画通り研究が進捗しているものの技術の進歩は早く、ドイツはすでに新たな代替技術を模索しながら、当初コンセプトを変形・進歩させつつある点は注意が必要である。こうした状況を踏まえ、フィールドワークをもう少し丁寧かつ丹念に進めていくことで、本研究の趣旨からぶれることなく研究を進めていくことが可能であると感じている。しかしながら、背景にある競争環境、例えば、生産年齢人口の減少に伴う人件費比率の逓減および「インダストリー4.0」が示唆するデジタル・トランスフォーメーション(DX)下における新時代の技術的、組織的ケイパビリティの特徴点を明示し、競争力の源泉たるコアケイパビリティの解明に挑戦することが喫緊の課題であり、また非常に重要であることは言うまでもない。これまで主に日本、アジア諸国、アメリカ、ドイツの自動車関連メーカーへの聞き取り調査を行ってきたが、昨今特に、世界的にも独自の競争力を発揮するイタリアの製造セクター、とりわけミラノ周辺に集積する中小メーカーの経営手法に注目が集まっている。これらの企業への聞き取り調査を次年時の旅費も充当しつつ新たに加えることでインダストリー4.0時代における技術的、組織的特徴点を導出させ、さらなる競争力の源泉たる優位性の解明につなげたい。このように本研究は、最先端の研究内容を含むことから、予想される結果をあらかじめ特定することがますます難しくなっているが、我が国の製造セクターの存続のカギを握る極めて重要度の高い研究課題であり、実務的視点から将来的な日本のものづくりのあるべき方向性を提案し学術的貢献を図る。
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Causes of Carryover |
学内運営関連職務の増加により、現地での調査日程の確保が難しく、当初計算よりも2日ほど短い滞在となったことが理由である。 来年度は、早目に調査日程を調整、確保し、計画通りに海外での調査が実施できるよう心掛ける。なお、次年度使用額は現地調査の旅費に充当する予定である。
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Research Products
(4 results)