2016 Fiscal Year Research-status Report
労働紛争当事者の規範と内面的要請―整理解雇をめぐる裁判を中心に
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16K03923
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Research Institution | Kawaguchi Junior College |
Principal Investigator |
平澤 純子 川口短期大学, その他部局等, 准教授 (50517224)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 解雇 / 内面的要請 / 規範 / 裁判 / 雇用調整 / 紛争 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の、研究期間内の目的は、整理解雇をめぐる紛争当事者の(1)試行錯誤して繰り広げる営為に内在する規範を究明し、その合理性を検討すること、(2)紛争処理をめぐる内面的要請を浮き彫りにすることである。この研究を足がかりとして、長期的には(3)国家の労働政策が、企業の経営政策を規定するのではなく、企業の自律的・自主的な経営政策を補完する労働政策の在り方を考察し、(4)資本主義経済において皆無にすることができない整理解雇と、整理解雇紛争に経営学が何をなしうるのか、経営学の可能性を探り経営学の存在意義を高めることを目指している。平成28年度は、a 研究の知見の整理、b 予備的な調査の実施、c abを踏まえ、本研究の制度を左右する「規範」「内面的要請」を明確にするための概念装置の考察と分析枠組みの検討をすることを計画した。 経営学の存在意義が問われている今日、経営学は経営の指導原理を探求して政策を提示すること、知るに値する有意義な価値を示すことを志すべきではないかという主張がある。本研究は、こうした最近の経営学会での議論の影響を受けている。そこで、この研究の初年度こそ長期的な視座で研究を始めるべきであるという意識の下で研究を進めた。紛争当事者の「規範」については、経営学の系譜を整理しながら「規範」の意義を研究する意義と方法を考察して学術論文を発表し、国際学会で報告を行った。また、解雇を含む雇用調整を実施したことのある経営者の集団に対して研究の構想を発表し、意見交換を行った。これにより本研究の意義をより高める機会を得た。これらの研究成果は本研究を長期的視野で展開するための考察結果である。他にも、これまでの研究の知見を整理して考察した論文を国際的なジャーナルに発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、a 研究の知見整理、b 予備的な調査の実施、c 左記abを踏まえ、本研究の制度を左右する「規範」「内面的要請」を明確にするための概念装置の考察と分析枠組みの検討をすることを目標としていた。そこで、目標別に進捗状況をみることとする。 上記a,cについては、単に本研究の目的を達成するためのプロセスとして実施するにどまらず、経営学の発展に寄与することを目指した研究を実施し、成果物を発表することができた。下記「研究発表・学術論文」の4点目では、先行研究の知見を整理しつつ、本研究が取るべき方法論について考察をした。また、下記「研究発表・学会報告」では、本研究の研究対象である「規範」「内面的要請」のうち、「規範」に限定して今後の研究を進める際の仮説をつくるための考察をまとめ、国際学会で発表し助言を得た。 上記bについては、予備的調査とはいえ、本研究の計画書を記載していた段階では個別の紛争当事者である労使への聞き取り調査をイメージしていた。しかしながら予想外の好機を得て、自らの手で雇用調整、整理解雇を実施した経営者の集団の前で研究発表を実施した。これにより研究を進める上での新たな課題が浮き彫りとなり、研究の意義を高めるための注文も寄せられた。そのこと自体は想像を上回る収穫になった。とはいえ、想定外の機会への対応で、イメージしていた調査の実施を後ろ倒しにすることになり、研究費の次年度使用分を増やす結果にもつながった。 以上を総合すると、「おおむね順調に進展している」とするのが妥当だと思う。
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Strategy for Future Research Activity |
上記「現在までの進捗状況」に記載したように、実際に集団解雇を含む雇用調整を実施した経営者集団の前で発表をし、意見交換をする機会を得たことは想定外の大きな好機であった。ここで様々な反応・助言を得ることができた。特に、この研究の意義を高めるために乗り越えなければならない課題の大きさを、身をもって体感することができた意義は大きい。それは、経営者たちが本研究に対して、第一に、反射的には拒否反応を示すということである。第二に、雇用調整で苦労した経営者たちでさえも、雇用調整やそれに起因する紛争の行方は人間性に優れた経営者の存否に依存するという運命論にとどまっており、方法論を確立しようという意識は弱いという点である。 これは極めて自然な反応であろう。そして、不遜な言い方が許されるのであれば、だからこそ、本研究がクリティカルなものになりうるのであり、研究する意義があることを示していると捉えている。とはいえ、本研究を足掛かりとして有意義な「価値」、経営の指導原理を示すことを志すのであれば、「反射的な」拒否反応をも緩和し、拒否反応を想定してもなお参照する価値があるとみなしてもらえるような議論を展開することが求められるということになる。 したがって、平成29年度の初めから紛争当事者に対する調査を実施するところであったが、より一層経営実務に研究の意義を感じてもらえるような見直しをしてから着手するべきだと考えている。その上で計画した通りに研究を進める。具体的には紛争当事者に対する調査を実施し、調査で得たデータや訴訟記録の渉猟などから得たデータを理解的方法によって分析する。そして、初年度に検討した概念装置、理論枠組みを用いて第一に紛争当事者が試行錯誤して繰り広げる営為のなかに内在する規範を究明してその合理性を議論する。第二に、紛争当事者の紛争処理をめぐる内面的要請を説明する。
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Causes of Carryover |
理由は次の二つである。第一に、国際学会での研究成果発表のための費用を平成28年度に計上したが、国際学会の開催が3月末であり、旅費は年度内に支払うことができたが、人件費の支払いは次年度に回ったためである。第二に、F-7-1(研究実施状況報告書)に記載のように、平成28年度に実施を計画していた個別の紛争の当事者である労使に対する予備調査を後ろ倒しにしたためである。研究を進める中で、整理解雇を含む雇用調整を実施したことのある経営者の会合で、本研究の構想を発表し、研究について意見交換をするという想定外の機会を得た。無償で多くの助言を寄せていただき、その上予備調査を実施するよりも効果的でもあった。研究を進める上では有利な展開になったが、予備調査の実施を遅らせる要因にもなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記1の、3月末の学会報告の費用のうち、支払いが次年度に回った分については、次年度の支払いが決まっている。上記2の予備調査の実施の後ろ倒しについては、予定していた予備調査の実施を上回る知見を得られたため、予備調査の内容を拡充させて実施していくことで使用させていただく。本研究を採択していただいた以上、出していく所存である。
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Research Products
(5 results)