2016 Fiscal Year Research-status Report
ナショナルなシティズンシップの分断と移民・難民・先住民族:社会学的日豪比較研究
Project/Area Number |
16K04094
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
塩原 良和 慶應義塾大学, 法学部(三田), 教授 (80411693)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 社会学 / 移民 / 難民 / 先住民族 / オーストラリア / 排外主義 / シティズンシップ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代の社会変動がもたらす国民国家のシティズンシップの変容を、エスニック・マイノリティとマジョリティ国民の関係性の変化という視点から考察することで、日本を含む先進諸国における多民族・多文化共生の社会学的研究に貢献することを目指す。2016年度は、8月、11月、3月に、それぞれ1週間程度のオーストラリアでの現地調査を行った。1年目ということもあり、調査は予備的な聴き取りとインタビュー、そして文献資料の収集を重視した。 フィールド調査としては、8月と11月の調査では、オーストラリアにおける移民の社会参加のケーススタディとして、シドニーの日本人移民の市民活動イベントの視察と関係者への聞き取りを重点的に行った。また3月の調査では、韓国系移民によってシドニーの郊外に建設された「慰安婦像」をめぐる現地での動きと日本人移民コミュニティへの影響についての調査を行った。これらは研究代表者が続けている在豪日本人移民研究に、シティズンシップの視点からの示唆をもたらす重要なものであった。 文献資料の収集としては、オーストラリアにおける、庇護希望者問題を含む人種差別の歴史や近年の排外主義の台頭に関する先行研究や公文書資料などの収集を、オーストラリア国立図書館やNSW州立図書館を中心に行った。これらは日本ではあまり研究がされていない領域であり、来年度以降、本格的な調査を進めて業績として発表していくことを目指す。 これらの調査をもとに、2016年度中にいくつかの論文や研究報告、編著書を発表し、また2017年度はじめにはここまでの研究成果を反映させた単著を出版する予定である。このように、調査研究は、若干の計画変更はあったが順調に進展し、初年度にもかかわらず成果も刊行することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、オーストラリアにおける庇護希望者政策の厳格化とそれがもたらす影響に焦点を絞って資料収集と分析を行う予定であった。この課題については、現地調査における先行研究や文書資料の収集を行い、予定通りの成果を得た。その成果も、論文等で発表した。しかし2016年度に入り、オーストラリア連邦政府の移民政策・庇護希望者政策にいくつかの変化が見られたため、しばらく様子を見て本格的な調査は来年度以降の課題にすることとした。 それに代わり、従来あまり日本では先行研究がなかった、オーストラリアにおける排外主義の歴史的進展と現状についての資料収集と分析を進め、いくつかの重要な示唆を得た。 このように、今日的な課題を扱う本研究では、現実の政治・社会状況の変化に応じて研究計画を変更しなければならないことがあるが、にもかかわらず臨機応変に対応し、順調に進展させることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度後半から、オーストラリア社会における排外主義の台頭と、それに伴う移民政策の排外主義的転換が顕著になっている。これは米国やヨーロッパ政治における移民への排外主義の台頭とも連動しており、非常に重要な研究課題となっている。 そこで2017年度も引き続き、移民・難民への排外主義に焦点を当て、オーストラリアの政治・社会の動向を分析していくことにする。
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