2017 Fiscal Year Research-status Report
生活改善をめぐる社会教育事業とマスメディアの関係史
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16K04550
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
久井 英輔 広島大学, 教育学研究科, 准教授 (10432585)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 社会教育 / 生活改善 / マスメディア |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は、研究計画における②戦後初期・高度成長期における生活改善運動とマスメディアの相互関係について、1950年代の愛媛県を事例として、戦後初期の新生活運動においてマスメディアが果たした役割の解明を進めた。 1947年に片山哲内閣が提唱した新生活運動(新日本建設国民運動)は、同内閣の退陣とともにまもなく終息してしまったが、その直後、農林省が主導する生活改善普及事業が始動し、コミュニティ・レベルでの婦人会、生活改善グループによる活動が、農協や保健所の活動と連動しつつ拡大していった。これらの実践を「新生活運動」として改めて位置づけ、推進しようとしたのが、1950年代初頭のマスメディアであった。 本研究においては、当時のマスメディア(特に読売新聞社)が、新生活運動の意義を1952年前後から盛んに提唱するようになり、そのモデル事業活動が愛媛県において、各地の公民館活動の活性化に影響を与えていたことを示した。 本研究ではまた、当時の「新生活運動」という理念について、地方自治体の社会教育行政関係者が、自らの背景にある文脈に適合させて解釈していたことを明らかにした。愛媛県においては、社会教育課は以前から進めてきた「全村教育」の意義を強調するために、「新生活運動」を行政計画の中に位置づけた。公民館関係者は、各地の公民館の財政難を克服するために、「公民館は新生活運動の拠点である」という論理を構築した。「新生活運動」はもともと多様な事業や理念を包含しうる概念であり、多様な文脈で諸主体によって活用されたのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画は、戦前・戦後日本の生活改善運動(新生活運動)におけるマスメディアの役割、位置づけを明らかにするものである。 戦前(戦間期)におけるマスメディアの役割については、自ら生活改善に関わる役割、生活改善関連団体への批判的役割に関して、歴史的事例の検討の大部分を2016年度に行った。 戦後(戦後初期)におけるマスメディアの役割については、愛媛県を事例とした検討を2017年度に行った。 当初の研究計画としては戦前の事例の検討の大部分、および、戦後の事例の検討の50%程度を2017年度までに行うこととしていた。これらのほとんどを2017年度内に終えることができたため、当該年度の研究進捗状況は、概ね順調と判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、第一に、戦後の新生活運動に関わるマスメディアの事例として、1950年代における読売新聞社(特に同社の青年部の活動)を取り上げ、同社が多様に展開した社会教育事業のなかで、新生活運動がどのような位置づけをしめていたか、また、同社の新生活運動に関わる事業を展開する中で、文部省、農林省など関係省庁とどのような関係を築いていった検討する予定である。第二に、本科研費による2016年度からの検討作業を総括することで、戦前・戦後の生活改善運動(新生活運動)におけるマスメディアの役割を整理し、成果報告書を作成する。
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