2016 Fiscal Year Research-status Report
走査型透過軟X線顕微鏡による超軽元素2次元化学状態分析法の開発
Project/Area Number |
16K05022
|
Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
大東 琢治 分子科学研究所, 極端紫外光研究施設, 助教 (50375169)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 走査型透過X線顕微鏡 / 軽元素分析 / 全反射型ゾーンプレート |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度の実績として、走査型透過X線顕微鏡(STXM)ビームラインにおける低エネルギー領域(50~150 eV)の利用を実現した。このエネルギー領域にはLi、Beの軽元素のK吸収端をはじめ、Al、Si、PなどのL吸収端が存在する。また有機物の主成分となる炭素の吸収端より低いエネルギーなので透過力が高いため、低エネルギーにも関わらず、炭素を主として測定する場合と同じ厚さ(~150 nm)の試料を測定することが出来る。このような分析手法は、他の放射光施設などの同等の装置では殆どの場合、実施不可能である。この特徴により、生物(P)や2次電池分析(Li)などの分野において、STXMの応用研究の可能性を飛躍的に広げることが出来たと言え、既に申請者が開発したこの領域のエネルギーを有効に利用している利用者は、少なからず存在している。特にまだ顕微分析は実現出来ていないものの(29年度に実施予定)、Li K吸収端での顕微吸収分光測定は世界的にも類を見ない手法である。 一方で、低エネルギー領域における適切な光学素子は、今のところ皆無に等しい。その主な理由は、低エネルギー故に一般的に材料に対する吸収が高くなるので、効率が上がらないためである。その点において、当該課題で提案している全反射型Zone Plateは全反射を利用しており、支持材などによる吸収がないので、高効率な光学素子となる。28年度はまだ提案と試作の段階にとどまっているが、29年度には実践的にSTXM光学系で利用できるものと期待している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度に実施した計画は、ビームラインにおける50~150 eVの低エネルギー領域の利用を可能にしたことと、全反射型Zone Plateの試作である。 ビームラインでの低エネルギー領域の利用において、50 eVまでのアンジュレーターギャップのチューニングとモノクロメーターのアライメントを完了し、実際にX線を利用可能なセットアップにすることができた。分光性能評価として、窒化シリコン膜を試料として用いてSi L端(98 eV)の吸収スペクトルの測定を行い、エネルギー校正を行なうことができた。この結果より、モノクロメーターから生じる高次光は、光学系のアライメントにより大きく軽減できている事が分かった。また同様にZone Plateを使わずに塩化リチウム粉末を用いてLi K端(55 eV)の測定を行なったところ、吸収端らしき吸収構造はみられたが、試料の潮解による形状変化のため、明瞭な結果は得られていない。 分子研装置開発室が所有するフォトリソグラフィを用いて、透過型 Zone Plateの試作を行なった。設計パラメーターは最外輪帯幅3 μm、直径1 mm、ゾーン数50で、金をパターン材料として窒化シリコン膜上に製作した。半導体レーザー(630 nm)を光源として集光実験を行なったところ、僅かに集光スポットを見ることができた。STXMを用いて描画パターンを観察したところ、その透過率からアスペクト比およびエッジの立ち方は充分であったが、通常のプログラム描画では輪帯外周部の細いパターニングでのライン&スペースの描画制御に問題があることが分かった。 2次電子検出に向けて、STXMメインチャンバーのシール部や内部環境のメンテナンスを行ない、真空度を大幅に向上(~10^-6 mbar)する事ができた。また排気系の振動対策を行ない、ステージ類に伝わる振動を大きく軽減した。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の主な計画は、2次電子検出器開発と全反射型FZPを用いたSTXM光学系を構築し、塩化リチウム粒子のLi K吸収端のNEXAFSスペクトルを顕微測定することで、光学系の評価を行なうことである。そのため平成29年度は、実地で光学系を構築するため、STXMビームラインの一週間のマシンタイムを申請する。 STXMに2次電子検出器である小型チャンネルトロンを導入するにあたり、検出器を可能な限り試料に近接させ、見込み角を大きくとる必要がある。そこでオフラインの時間を利用して、装置開発職員と協力し、上記セットアップが可能となる治具の設計、製作を行なう。マシンタイムでは、塩化リチウム粉末を評価用試料として測定するが、前年度の潮解による試料変形を鑑みて、グローブボックスで密閉乾燥状態の試料を準備し、その Li K吸収端における顕微NEXAFSスペクトルを測定することで、システムの評価を行う。28年度において、Li K吸収端での明瞭なスペクトルは得られていないが、集光光学素子として(反射型)FZPを用いることで、高次光低減の効果が期待できる。FZPはその回折格子としての光学的性質から、偶数次光の除去と奇数次の高次光の減衰を行なうローパスフィルターとして機能するため、高次光のエネルギー推定がより容易となり、改めて除去法の検討を行うことが期待できる。 一方で、平成28年度の研究過程において浮上した課題として、平成29年度で光学系に使用予定の全反射型FZPの製作については、描画分解能および線幅の制御が問題となっていた。そこで平成29年度は大学共同利用機関の最新の電子線リソグラフィ描画装置の利用申請を行なうことで、よりクオリティの高い全反射型FZPの製作を行なえることが期待される。
|
Research Products
(9 results)