2017 Fiscal Year Research-status Report
Turing パターンの生成と漸近パターン間を遷移する構造の力学系的研究
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16K05231
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
坂元 国望 広島大学, 理学研究科, 教授 (40243547)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | Turing不安定化 / 境界上の相互作用 / フラックスタイプ境界条件 / Tuirng patternと細胞極性 / スペクトルの変分法的特徴付け / 領域境界と領域内部の相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
第三種タイプの境界条件を通して境界上の反応拡散系とバルクの拡散方程式がカップルする系を二次元領域上で考察し、拡張された意味でのTuring 不安定化のメカニズムを発見した。これは、研究代表者がTuring不安定化を様々なタイプの反応拡散系へ拡張することを目指して行ってきた研究活動を「内部拡散ー境界相互作用ー境界反応拡散系」に広げて適用して得た一つの結果である。特徴は、「一つの有界領域上で線形拡散する成分(u)と、同じ領域の境界上で反応拡散する成分(v)とが、領域境界上の第三種境界条件を通して相互作用する系」を扱ったことである。このような系は、細胞極性発現のメカニズムを数理モデルとして提案された系であり、v の境界上での拡散係数が u の領域内での拡散係数と比較して小さい場合に、一様状態(細胞極性がない状態)が不安定化して非一様な安定状態(細胞極性が発現した状態)を自律的に生み出すことを示している。明らかにTuring不安定化メカニズムの特徴を備えており、応用の観点からは、細胞の形や機能は細胞質内のタンパク質の状態だけではなく、細胞膜上のタンパク質の挙動や細胞膜から細胞質へのフィードッバク・メカニズムにも依存していることの理論的証拠とも解釈できる。この理論的研究は、現実の細胞が存在する空間3次元の場合にも適用可能であり、現在、多方面の理論・実験の研究者と共同して研究を進めている。
研究代表は、数理科学諸分野の研究動向を収集・共有して研究課題の目的を達成するために、平成29年度3月(2018年3月14-2018年3月18日)に広島大学にて以下の国際会議 The Third International Conference on The Dynamics of Differential Equations URL:hale-conference.com/ を主催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の目的は、従来のTuring理論の適用範囲を種々の反応拡散系に拡張してその適用範囲を、現在の数理生命科学が要請する数理モデルにも適用する事である。従来のTuring理論の適用範囲は「ある有界領域内で定義された反応拡散系を斉次neumann 境界条件の下で考察するモデル」であった。本研究計画において、平成28年度は「ある有界領域内で定義された拡散系をFlux型非線形境界条件の下で考察するモデル」に適用範囲を広げることに成功した。平成29年度は、さらに、「在る有界領域内で定義された拡散系と領域境界上で定義された反応拡散系が領域境界上におけるFlux型非線形境界条件を介してカップルするモデル」に考察範囲を拡張することに成功した。このように、Turing不安定化の数理科学的メカニズムを種々の反応拡散系に対応して包括的に確立することは研究目的を計画通りに推進することが出来た。 一方、研究目的の二つ目の側面:「Turing パターンを漸近状態とする遷移構造の力学系的研究」の達成については、漸近状態としてのTuringパターンが、当初の想定以上に多彩でありその包括的研究に時間とエネルギーを費やしているため、殆ど推進出来ていない状態である。平成30年度の研究も種々のTuringパターンの生成メカニズムの探索に集中する予定のため、「遷移構造の力学系的研究」については、将来の研究課題となることが予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度29年度に得られたTuring不安定化メカニズムの包括的研究をさらに推進して行く。平成29年度に得られた結果を、細胞極性モデルへの適用を考えて、より現実的な3次元領域への拡張を行う。過去2年間で得られた結果を検証すると、領域境界上のダイナミクスや相互作用からのフィードバックは、Turing不安定化のメカニズムを発現する際に状態の振動的挙動を引き起こす傾向があることに気づいた。これは、考察対象のシステムに時間遅れ的な効果は陽には含まれていないにも関わらず、時間遅れ効果と同様の挙動を系に発現させているものと解釈している。これらの関係は厳密な理論的研究で証明されたことではないが、現在まで見過ごしていた何か新しい発見の可能性を秘めていると考えられるので、このような観点からも本研究課題の目的に多面的に取り組んで行く。また、領域境界からのフィードバックにより、従来のTuringメカニズムとは違い、系に関与するすべての拡散係数が同じ場合でも、実効的にはTuring分岐と同じ現象を引き起こすことがあることを発見した。その理論的研究をさらに多くの状況に適用する可能性を探る研究を進めて行く。従来のTuring不安定化の研究では、「staticな状態の分岐が、システムに関与する成分の拡散係数の差が大きい場合」のみを研究することにほぼ限定されていた。現在、本研究課題のもとに研究を進めている課題は、従来のTuringメカニズムに「振動効果」と「非局所効果」を内在的に持つ系への拡張として捉えられる。このような拡張された観点から、より包括的な研究を模索して研究を進めて行く。
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