2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K05354
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
佐藤 透 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (10135650)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ニュートリノ原子核反応 / 重陽子 / パイ中間子発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
ニュートリノ振動実験からCP非保存位相を抽出するためには、電子型、ミュー粒子型それぞれのニュートリノ及び反ニュートリノ原子核反応を正確に知る必要がある。長基線ニュートリノ実験ではGeVニュートリノが用いられるため、準弾性散乱から核子共鳴領域における、Inclusive反応およびSemi-Inclusive反応の解析が必要となる。共鳴領域のニュートリノ反応では、デルタ(1232)共鳴を励起するパイ中間子発生反応が主要な寄与を与え、その反応機構の理解が重要となる。デルタ領域における陽子、中性子のニュートリノ反応データは重陽子を標的とした泡箱実験(ANL,BNL)の解析から得られてきた。解析は1核子が相互作用するインパルス近似で行われていた。
本研究では、これまで見落とされていた核子・パイ中間子の再散乱過程を取り入れたニュートリノ・重陽子反応の寄与を調べた。その際、ニュートリノによるパイ中間子発生機構、パイ中間子・核子散乱過程には我々が開発したチャンネル結合・中間子生成反応模型を用いた。ニュートリノ・重陽子反応全断面積には、ニュートリノのエネルギーに依存して数%から10パーセント程度の終状態相互作用の効果があることが判明した。とくにπ+中間子生成反応において2核子再散乱過程が重要をしている。また重陽子中における、陽子あるいは中性子によるπ+中間子生成反応断面積を抽出するために、スペクテータ核子の運動量分布が必要となる。このスペクテータ核子の運動量分布の形はインパルス近似でほぼ理解できるものの、終状態相互作用を取り入れた解析をしていないこれまでの解析では、ニュートリノ核子反応断面積を約10%程度過大評価している可能性が判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
重陽子におけるニュートリノ反応に関する研究は順調に進展し成果が得られつつある。デルタ共鳴領域における重陽子を標的とするニュートリノによるパイ中間子生成反応の研究は、研究協力者中村聡氏によるモンテカルロ法を用いた計算コード開発が成功し高速な数値計算が可能となり、研究が進展した。この研究成果については、学術論文を準備中である。また既に、NUINT2017やJPARCで開催された研究集会で発表し、また国際研究集会Washintong大INTに招待されるなど、国際的に注目を集めている。 ニュートリノによるパイ中間子生成反応をテーマとして、世界の一線の研究者による研究集会をJPARCで開催した。またこの分野で活躍しているAligah大学Alam氏、Valencia大学Nieves氏、Salamanca大学Hernandez氏らとの共同研究を開始し、ニュートリノ反応における、現在世界で用いられているパイ中間生成模型の比較検討を行っている。
一方少数核子系におけるニュートリノ反応研究については、当初予定していたローレンツ積分変換法に問題があることが判明し、研究協力者堀内渉氏らとガウス展開法を用い計算可能なニュートリノエネルギーの領域の検討を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
ニュートリノ・重陽子反応における再散乱研究で用いた定式化を、実験データが蓄積されている重陽子光分解反応に応用しする。データ解析の際には、しばしば運動学的カットにより終状態相互作用は取り除かれると仮定されているが、今年度の終状態相互作用の研究結果からは反応模型によらない素過程断面積の抽出には困難が予想される。開発したニュートリノ・重陽子反応のコードは重陽子光反応に応用でき、またニュートリノ反応と異なり終状態3粒子系のためより詳しい解析が可能となる。この研究により終状態相互作用に対する理論的取扱いを、データがある反応で検証し、ニュートリノ反応断面積の抽出方法に関する知見を得ることができると考えられる。
少数核子系の反応については、3核子系の電子散乱について、準弾性散乱に加えパイ中間子生成過程の寄与を含めた解析を目指す。このために、角運動展開を行わない方法を開発する。この際、1核子流とともに交換電流が寄与することが知られているが、電流保存を取り入れた1核子流の書き換えにより、大部分の交換電流の効果が取り込まれることも知られている。ここではFriarらが過去に行った定式化を参考に、電流保存を部分的に取り入れた角運動量展開しない1核子流を導くことから始める。また研究で必要となる、核子中性電流における軸性ベクトル流の結合定数は超新星爆発のニュートリノ反応、Non-standardニュートリノ相互作用の観点からも注目されている。軸性ベクトル流結合定数を電子散乱から抽出する方法についても考察する。
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Causes of Carryover |
(理由)年度末に予定していた協力研究者らとの研究会合が日程調整が不調で開催できず、次年度に持ち越しとなったため。
(使用計画) 未使用額は、平成30年度に旅費として使用する予定である。
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Research Products
(15 results)