2018 Fiscal Year Research-status Report
高線量下で動作するロバストで可搬なMeVオーダーγ線コンプトンカメラの開発
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16K05376
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
長谷川 庸司 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (70324225)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 放射線検出器 |
Outline of Annual Research Achievements |
開発研究を行っているコンプトンカメラでは,コンプトン散乱事象での散乱電子によって生成した電離電子をガス増幅により増幅し,それに伴うシンチレーション光をシンチレーションカウンタ(無機シンチレータと半導体光検出器(PPD)の組み合わせ)で行い,散乱電子の飛跡とエネルギーを再構成する。また,このシンチレーションカウンタは散乱γ線のエネルギーと方向(散乱角度)の測定にも用いられ,従来の信号読み出しと比較し,簡便になることが期待される。中でも鍵となるのは,ガス電子増幅器(GEM)におけるガス増幅に伴うシンチレーション光の発生位置の測定を行うことにある。シンチレーション光はガス増幅による電離で増幅された電子がイオンと再結合するときに発せられ,光の波長はガスの種類に依存し,現在用いているアルゴンでは真空紫外光である。この光をシンチレータで波長変換し,PPDで測定する。しかし,アルゴンに混合されているメタンは真空紫外光を吸収し安定したガス増幅を起こさせる目的で添加されるため,光を検出はできているが,位置測定や,光の到達時間を測定するには光量が十分ではないことが分かった。観測する光量を増加させるのにGEMの増幅率を上げると放電が発生し,安定動作が困難となるため,シンチレータの位置や波長変換剤の導入など検討を行っている。 また,高放射線環境下での入射γ線の方向決定のために,シミュレーションを用いて,従来のアルゴリズムを用いた場合とニューラルネットワーク(NN)を用いた画像処理を行った場合のγ線分布の測定精度の比較検討を行っている。シミュレーションによりNNにγ線の飛来方向を学習させ,それを計算機能を備えた書き換え可能なLSI論理回路に実装することにより,従来の方法に加えて,NNによる再構成方法も可能になり,放射線環境に応じた方法で飛来方向を決定できるかどうかを確認している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
位置測定,光の到達時間測定に十分な光量の検出が未達成である。電子ガス増幅器(GEM)の増幅率には限界があるため,観測する光量を増加させるために,シンチレータの位置や波長変換剤の導入などの検討を行っている。 入射γ線がコンプトン散乱される際に生じる散乱電子の飛跡の再構成には,GEMによるガス増幅が発生した発光位置とγ線が入射してから光が観測されるまでの時間の測定が必要となる。精度良く再構成するためには飛跡に沿ったより高密度な電離を起こさせる必要がある。 信号読み出し回路および信号処理回路については,信号読み出し用の集積回路と信号処理用の計算機能を備えたLSI論理回路を用いるが,設計では二つを別々の基板の上で構成し,それぞれの機能を独立に検証している。
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Strategy for Future Research Activity |
シンチレーション光の光量を増加させる方法として,1)波長変介在の導入,2)ガスの圧力をより高くすること,3)アルゴンより高密度電離が可能なガスを用いることを検討している。 1)の波長変換材の導入方法としては,ガスに混入させる方法とガス電子増幅器に塗布する方法を検討している。2)の加圧容器の設計については, 1.5気圧程度まで耐えうる容器を検討している。しかし,設計が困難な場合に備え,3)検出に用いるガスを,1気圧においてアルゴンより高密度電離が可能なガス(例えばキセノン)に変更することも検討している。 信号読出回路及び信号処理回路に対しては設計の変更を行っている。信号読み出し回路については既存の読み出し回路を用いる。信号処理回路については計算機能を備えた書き換え可能な論理回路で構成し,読み出し回路で読み出したデータを一次保存し,そのデータを用いて読み出し回路をソフトウエアにより擬似的にエミュレートすることで,信号処理回路の性能を評価する。信号処理回路では,従来の再構成方法と機械学習による学習をさせたニューラルネットを用いる再構成方法を評価する。
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Causes of Carryover |
シンチレーション光を可視光に変更するための波長変換材の評価と選定に時間を要しているため。H31年度には波長変換材の選定と評価を行う。 散乱電子の飛跡再構成のため,飛跡に沿ってより高密度の電離が起こるようにする必要がある。それには,ガスの圧力を上げる方法があり,その加圧可能な容器の設計に変更が必要となったためである。また,ガスの圧力を上げるのが困難な場合に備え,検出ガスの変更を検討し、高密度の電離が起こるガスを評価,選定することも同時に行う。 信号読み出し回路と信号処理回路の接続が困難なため,それぞれの回路を独立に評価するための回路が必要となり,それらの設計と作成を行う。 次年度使用額は,加圧したガスに耐えられる容器およびガス供給系の製作と、波長変換材の購入や波長変換材を塗布したガス電子増幅器の製作、信号読み出し回路と信号処理回路の製作に使用する計画がある。
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