2016 Fiscal Year Research-status Report
運転現場におけるシリコン半導体飛跡検出器の放射線損傷に関する系統的研究
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16K05386
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
近藤 敬比古 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, その他部局等, 名誉教授 (30150006)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 素粒子実験測定器 / シリコン半導体検出器 / 放射線損傷 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年はLHC加速器の運転が順調で、陽子陽子衝突のルミノシティが予想の1.5倍である40 inverse femto barnまで達し、シリコン検出器の放射線損傷もかなり進行した。放射線損傷の度合いを調査するため、2016年11月,12月と2017年3月にSheffield大のポスドクとシリコン検出器のリーク電流や雑音の電圧依存性データ(IVカーブ)をとり解析した。その結果、ビーム軸から30cmの所に置かれたSCTの最内層では、p-on-n型シリコン検出器で起る型反転(n型からp型に変わる現象)が起こっている兆候が見えてきた。中間結果をグループ内会合で発表した。 並行して、シリコン検出器のリーク電流の増加を系統的に調べた。リーク電流は放射線損傷で通過粒子数に比例して増加するが、一方温度依存度の強いアニーリング(緩和)現象のために減少もする。そのため過去にさかのぼってシリコン検出器の温度のデータを系統的に調べた。その温度履歴を組み込んで、2011年からのリーク電流の時間変化が放射線損傷モデルによる予想とどれほど一致するかを定量的に比較するプログラム(過去に筆者が開発)をアップデートしモデルとデータの比較を2016年末現在までした。モデルとの一致はかなりいい。しかにこのプログラムはまだ未整備で汎用性が乏しい。新たに参加する研究者でも困難なく使えるよう汎用性の高いプログラムに改善している。 4000台以上あるシリコン検出器モジュールの各々の雑音と利得(ゲイン)はビーム停止時を利用して行われるキャリブレーション(較正)ランでモニターされデーターベースに蓄積されている。そのデータを筑波大の大学院生と協力して解析し、2010年より2016年末までの雑音と利得の時間的な変化を系統的に調べた。雑音が最大15%まで上がるモジュールがかなりあり、その場所依存性などを調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
H28年度は、フライブルグ大(独)のポスドク、シェフィールド大(英)のポスドク、筑波大の大学院生を指導しながら、その人たちと協力して本研究を予想以上に進めることができた。放射線損傷による半導体の型反転の兆候もつかめた。リーク電流のモデルとの比較、雑音レベルの変化も系統的に研究できた。アトラス実験グループ(メンバー数3千名)の内部にまだ」限られているが、サブグループ内発表を何度か行い、内部ノートも1つ完成しもう一つは著作中である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)較正データを解析するプログラムを改善し、他の研究者も使えるよう汎用性を高くする。 (2)2017年中もLHCが稼働しシリコン検出器の放射線損傷も進むので、随時その進行具合をモニターする。この作業に関して、大阪大の准教授を指導しながら、今までデータ解析ができなかった前方・後方部分の検出器のリーク電流の解析を行いモデルと比較する。 (3)スペインのポスドクを指導し協力して、全空亡層電圧の変化を定量的に測定する手法を開発する。 (4)データとシミュレーションが系統的に食い違っているシリコン半導体のクラスターサイズの原因を突き止める。 (5)学会発表を目指す。
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