2017 Fiscal Year Research-status Report
ポジトロニウムを用いた硫酸酸性環境中の硫酸塩ナノ鉱物形成機構の微視的研究
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16K05394
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
中田 正隆 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (80180305)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 硫酸酸性環境 / 硫酸塩ナノ鉱物 / 物質移行 / オングストローム空間 / ポジトロニウム |
Outline of Annual Research Achievements |
硫酸酸性環境中の硫酸塩鉱物形成メカニズムは,環境への鉛溶出抑制に重要な役割を果たしていると考えられている。しかしながら,方鉛鉱から硫酸鉛鉱が形成されるメカニズムや生成環境に関する明確な記述はない。本研究では,研究代表者らがこれまで発展させてきた“ナノスケール空間(ナノ空間)を介した物質移行”,“粒界・ナノ結晶粒・マトリックス拡散の概念を取り入れたナノ鉱物としての取り扱い”をベースに,硫酸酸性環境中の硫酸塩鉱物形成メカニズムにアプローチする。硫酸塩鉱物形成を,ナノ空間を介した物質拡散,ナノ空間内壁で局所的に発現する化学反応で記述できるmechanisticモデルの構築を目指す。平成29年度は,硫酸酸性環境下で調整した試料に対して陽電子寿命測定法を用いてナノ空孔解析を推進した。反応時間1日の試料について得られた陽電子寿命は100 ps(16%)と400 ps(84%)であった。これらは,硫酸塩鉱のマトリックス中,ナノボイドにおける陽電子寿命と推測される。昨年度行ったX線回折実験,電解放射型走査電子顕微鏡観察の結果から,硫酸酸性環境下での反応時間を長くするにつれて,硫酸塩鉱と出発物質の方塩鉱が多量に生成していることがわかっている。そのため,今回陽電子寿命測定によって見出されたナノスケールの局所構造は,硫酸塩鉱生成に付随して生成していることが推測される。同時係数ドップラー広がり計測を用いて陽電子消滅サイトの元素分析を行ったところ,消滅サイトは主に硫黄であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の内容は,大きく分けて硫酸酸性環境下での硫酸塩鉱物の調整,X線回折実験や電解放射型走査電子顕微鏡観察による組織評価,ポジトロニウム分光法による空隙の調査である。初年度に当たる平成28年度は,様々な条件の硫酸酸性環境下における試料調整を行い,硫酸塩鉱生成に伴うナノ組織や相の変化をX線回折実験,電解放射型走査電子顕微鏡観察により調べた。試料は,方鉛鉱と硫酸鉛鉱をステンレス圧力容器内のテフロン反応容器に封入し,一定期間放置するバッチ式により合成した。硫酸濃度は,天然の地質環境よりもやや酸性の強い硫酸性環境を想定し,初期濃度を0.5 Mに設定した。反応温度は,天然の地表環境における熱水条件を想定し,110℃に設定した。反応時間は1日,3日,7日,15日,20日とした。X線回折実験の結果,全ての試料について,硫酸塩鉱と出発物質の方塩鉱が見出された。これらは,反応時間が長くなるほど,多量に生成した。同様の傾向が,電解放射型走査電子顕微鏡観察の結果からも見て取ることができた。初年度については,当初予定していた硫酸酸性環境下での硫酸塩鉱物の調整,X線回折実験と電解放射型走査電子顕微鏡観察による生成相の評価は順調に進んだと言える。平成29年度は,調達・調整した試料に対して陽電子寿命測定を推進した。反応時間1日の試料について得られた陽電子寿命は100 ps(16%)と400 ps(84%)であった。これらは,硫酸塩鉱のマトリックス中,ナノボイドにおける陽電子寿命と推測される。同時係数ドップラー広がり計測を用いて陽電子消滅サイトの元素分析を行ったところ,消滅サイトは主に硫黄であることがわかった。硫酸塩鉱中のマトリックス成分,ナノボイド成分が定量的に評価できたこと,さらにそれら近傍の元素情報が得られたことは,今後の物質移行研究に向けて意義がある。現在までの達成度はおおむね順調と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までに,陽電子寿命測定と同時係数ドップラー広がり計測を併用することにより,硫酸塩鉱中のマトリックス成分とナノボイド成分が定量的に評価できたこと,それら近傍の元素情報が得られたことは,今後の物質移行の解明に向けて意義がある。今後は,電子線プローブマイクロアナライザ等により,さらに元素情報を調べる予定である。加えて,長時間実験後の試料について,陽電子寿命測定と同時係数ドップラー広がり計測を併用し,硫酸塩鉱中のマトリックス成分とナノボイド成分を定量化する。本研究では,時間分解能,S/N比を飛躍的に向上させたデジタルオシロスコープを採用したシステムを用いる予定である。長時間実験後の試料のデータから,それぞれの反応温度についてナノボイドのサイズと量の時間依存性データを得る。一方,ケースバイケースで,液相の分析を推進する可能性もある。液相の分析については,全ての実験を対象にpH測定を実施する。長時間実験については,プラズマ発光分光分析等による鉛濃度測定を推進する。固相解析実験,液相解析実験,そして陽電子消滅実験のデータを基に,総合解析を行う。固相解析実験では,それぞれの反応温度についてX線回折や電子線プローブマイクロアナライザ実験データの時間依存性データが得られる。これらを基にアレニウスプロットを作成し,硫酸塩鉱生成に関する活性化エンタルピーを求める。液相解析実験で得られるpH測定等のデータからも同様に活性化エンタルピーが得られるため,その精度等について固相解析実験によるものと比較検討する。一方,一連の陽電子実験データからも,同様に活性化エンタルピーが得られることになる。前者はナノ空間を介した物質拡散の活性化エンタルピー,後者はナノ空間壁面における反応の活性化エンタルピーに相当する。これらを用いて,硫酸塩鉱物形成メカニズムを説明する新しいmechanisticモデルを構築する。
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Research Products
(3 results)