2016 Fiscal Year Research-status Report
十分に発達した乱流における時間的・空間的多重状態と記憶
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16K05490
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
高岡 正憲 同志社大学, 理工学部, 教授 (20236186)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
水野 吉規 同志社大学, 理工学部, 助教 (70402542) [Withdrawn]
横山 直人 京都大学, 工学研究科, 助教 (80512730)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 流体乱流 / 波動乱流 / ヒステリシス / 自己組織構造 / 壁乱流 / 回転乱流 / 柱状渦構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、壁との相互作用のある乱流(=「壁有乱流」と略す)と、波が重要な役割をする乱流(「波有乱流」)とを対象としている。前者では流れ(渦)の動力学が、後者では位相(波)の動力学が重要な役割をする。両乱流の相補的関係を利用しながら「乱流」と呼ばれるものの本質を探る。 「壁有乱流」については、役割分担者の経験豊富な平行平板間乱流から始めることになっていたが、10月以降に研究分担者を続けることが出来なくなったため、あまり進展していない。代わって、矩形断面容器内の流れをシミュレーションし,バスタブ渦の発生および遷移過程がわかってきた。 「波有乱流」については、研究実施計画どおり回転乱流から始めた。この系には慣性波が存在し、低波数側に非等方な波動乱流状態と高波数側に3次元等方性のKolmogorov乱流状態が共存することをシミュレーションにより確認した。また、この様な回転系ではTaylor-Proudmanの定理が知られているが、冪則を示すような十分に発達した乱流においてもRossby数が小さくなると回転軸に平行な大規模柱状渦が現れることを確認し、この柱状渦の出現が外力の振幅およびRossby数に対してヒステリシスを示すことを見出した。十分に発達した乱流においてヒステリシスを示す系として知られているのは、Taylor-Couette流のような閉じた系のみであったが、壁がない開いた系でもヒステリシスが起こりうることが分かった。他方、薄板の弾性波動乱流では、先行研究により低波数帯への外力の場合に強・弱乱流状態が共存することが分かっているが,高波数帯への外力の場合に2次元流体乱流のようにエネルギーが低波数側に流れ、凝縮のような様相を示すことも分かってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請時点で2名いた研究分担者の内の1名が平成29年10月1日より転職したが、転職先では採用時に定められた本務と関係のある業務以外の兼任は認められず、本科学研究助成事業の研究分担者から削除する必要が生じた。そのため、その役割分担であった「壁有乱流」の数値計算およびデータ解析において進捗に若干遅れが生じてしまっている。しかしながら、当初予定していなかったバスタブ渦に関して、矩形容器内におけるその生成過程や遷移について調べが進んでおり、日本流体力学会などで発表している。また、二重円筒内のTaylor-Couette流や球殻内のCouette流をシミュレーションするための数値計算コードを開発し、乱流状態を調べるべくプログラムのチューニングとパラメターサーチを行っている段階である。 他方、「波動乱流」の方は申請書の研究実施計画どおり順調に進展しており、回転乱流においては、冪則を示すような十分に発達した乱流においてもRossby数が小さくなると回転軸に平行な大規模柱状渦構造が現れることを確認し、この柱状渦構造の出現が外力の振幅およびRossby数に対してヒステリシスを示すことを見出した。これらの結果は、国際学会(24th ICTAMおよび69th APS/DFD)や日本物理学会などで発表した。それらをまとめて論文として国際学術誌に現在投稿中である。また、薄板の弾性波動乱流においてもエネルギースペクトルの外力に対する依存性などを調べ、国際学会(24th ICTAM)や物理学会などで発表した。先行研究との比較のための新たな定式化によるコードも開発し、特に高波数帯外力の場合も調べ始めている。弾性波動乱流に関する一連の研究をまとめ応用数理学会誌に査読有りの論文として公表した。さらに、Fourier空間と実空間の両面からエネルギーの流れを解析した結果を論文として国際学術誌に現在投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の半ばで1名の役割分担者を削除する必要が生じたため進捗が遅れている「壁有乱流」については、平成29年4月1日より同志社大学に後任として着任した研究者を研究分担者として申請しており、「壁有乱流」を役割分担をしてもらうことになっている。当該研究者は、回転球面上の帯状流の分岐や平行平板間乱流の数値計算およびデータ解析の経験が有り、十分に発達した乱流状態の実験においてヒステリシスが報告されている球殻内乱流のような「壁有乱流」も対象に含めることができるようになる。平行平板間乱流、二重円筒間乱流、球殻内乱流といった「壁有乱流」の結果を比較することにより、本科学研究助成事業の目的である乱流の記憶や多重性に対する壁面の曲率の影響についての知見が得られるものと考えている。 「波有乱流」については、回転乱流で見出したヒステリシスのさらに詳細な解構造の解析と、素過程を表現できる低次元のモデルの構築による物理機構の解明を、次の段階として考えている。また、本科学研究費助成事業の申請書の研究実施計画にも書いてあるように、内部重力波が重要な役割をする成層乱流についても、「異なる統計的性質を示す多重状態」の有無やその特性の解明から始める予定である。役割分担者の経験豊富な海洋波に関する知見が活かせるものと考えている。加えて、薄板の弾性波動乱流で見出した低波数域でのエネルギー凝縮についても、二次元流体乱流との関連や多重状態などについても調べる予定である。 乱流の数値シミュレーションにおける必要な計算パラメター領域に対して、予定している計算規模や計算機能力の不足などがあった場合には、Large Eddy Simulationのようなスキームを採用することにより、小さいスケールからの寄与を平滑化して取り込みながらも、冪則が現れる慣性領域を含む大スケール側の運動を直接数値計算と同様に扱うことを考える。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は、「現在までの進捗状況」でも書いたように、二人の研究分担者のうちの一人が、平成28年10月1日付で転職し、新しい職場の規則で本科学研究助成事業の研究分担者として続けることが出来なくなったため、その研究分担者が利用する予定であった旅費や計算機費用や設備備品費などが使用されなかったからである。このように研究分担者を継続出来なくなることは、転職に応募する段階では想定されていなかったので、使用額について研究者間で調整変更することが出来なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度(平成29年度)は、16th European Turbulence Conference 2017が8月下旬にストックホルムで予定されており、口頭発表の申し込みがアクセプトされたので、その出張旅費として必要である。また、平成29年度より、本科学研究助成事業の研究分担者として新たに1名が加わるよう研究分担者変更承認申請書を提出しており、認められれば新たに計算機費用や旅費といったものが必要となってくる。特に計算機使用料については、年度が始まるまでに募集される有利な利用形態のものが申し込めず、割高なものとなる可能性が高い。大規模数値シミュレーションをすることになるので、今年度に計上していた数値計算データ保存用外部記憶装置を、次年度に購入する必要があると考えている。これらのことを勘案すると、必要な経費は申請時の使用計画からは大きな変更は特に必要ないと判断している。
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Research Products
(7 results)