2016 Fiscal Year Research-status Report
低次元磁性体のマグノン対が織り成すスピン伝導・熱伝導現象
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16K05494
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
大西 弘明 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 先端基礎研究センター, 研究副主幹 (10354903)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | スピンネマティック状態 / 四極子励起スペクトル / スピン伝導度 / 熱伝導度 / 動的密度行列繰り込み群 / 数値対角化 |
Outline of Annual Research Achievements |
磁場中強磁性フラストレート鎖のスピンネマティック状態の動的四極子構造因子を動的密度行列繰り込み群により解析した結果、スピン相関関数を特徴付ける波数が磁場に応じて変化するのとは対照的に、四極子励起スペクトルには磁場に依らず波数パイの位置にギャップレスモードが現れることが明らかになった。従来、磁性実験の一般的な手法ではスピンネマティック状態を直接検出することは困難とされるが、四極子励起スペクトルを電子スピン共鳴実験で観測できるという理論的な提案もあり、四極子励起スペクトルの知見を得ることが強く望まれている状況である。今後さらに系統的な解析を進めて、磁場依存性・相互作用パラメータ依存性の詳細を明らかにしたい。 四極子励起スペクトルにおけるギャップレスモード出現は、2倍の量子であるマグノン対の励起エネルギーがゼロであり、マグノン対の流れがスピン伝導や熱伝導に寄与することを示唆している。この仮説を検証するために、スピン流の動的相関関数から求まるスピン伝導度、および熱流の動的相関関数から求まる熱伝導度のドルーデ重みを数値対角化により解析した。これまでに、20サイトまで計算を実行して、高温極限ではスピンドルーデ重みと熱ドルーデ重みがゼロになること、磁場を加えるとスピンドルーデ重みが増大することを示唆する結果が得られている。特に後者は、マグノン対が流れる効果の特徴の片鱗が見えたと期待しているが、有限サイズ効果が顕著なため、さらにシステムサイズを大きくした計算を遂行して注意深くサイズ外挿する必要があり、計算を進行中である。これらの結果をまとめ、論文発表を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
幅広い波数・エネルギー領域での四極子励起スペクトルを動的密度行列繰り込み群によって解析して、ギャップレスモードや分散関係の特徴を捉えた。また、数値対角化で輸送係数を計算するための大規模並列計算プログラムの開発が進展して解析が加速し、スピン伝導度と熱伝導度の温度・磁場依存性について解析結果がまとまりつつある。国際会議や学会で成果発表も行った。
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Strategy for Future Research Activity |
マグノン対の流れによるスピン伝導・熱伝導を視覚的に捉えるアプローチとして、波束の時間発展を時間依存密度行列繰り込み群を用いて数値計算する。数値対角化による輸送係数の結果とも比べ合わせて、スピンネマティック状態でのマグノンの流れ、マグノン対の流れの効果を調べる。また、時間変動する外場や温度勾配がある非平衡定常系の研究を展開するため、有限温度に対する密度行列繰り込み群の方法論に関する技術開発に取り組み、計算プログラムを整備する。
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Causes of Carryover |
当初計画において、平成28年度に並列計算のためのワークステーションを購入予定であったが、高い並列演算性能を兼ね備えた最新型インテル Xeon Phi プロセッサ搭載マシンが販売されるとの情報を入手したため、想定機種からの仕様変更を検討した結果、当初予定より低価格且つ高性能のマシンを購入できることが判明したため、平成29年度にインテル Xeon Phi プロセッサ搭載マシンを購入することに研究計画を変更したため、次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度分助成金については、当初計画のとおり、直交多項式展開の方法、量子状態の純粋化を行う方法を応用した計算プログラムの開発・整備に係る費用及び研究成果の発表に係る費用(学会参加費、旅費、論文投稿料)として使用し、平成28年度に生じた次年度使用額は、インテル Xeon Phi プロセッサを搭載したワークステーションの購入に係る費用として使用する。
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Research Products
(5 results)