2016 Fiscal Year Research-status Report
過冷却による熱電変換材料の組織制御と高性能化:結晶化プロセスの速度論構築
Project/Area Number |
16K06137
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Research Institution | Ishikawa National College of Technology |
Principal Investigator |
義岡 秀晃 石川工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (80259845)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加藤 亨 石川工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (50612016)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 結晶成長 / 熱工学 / 熱電変換 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,過冷却を原資とする化合物結晶の成長メカニズムの解明と,過冷却状態からの凝固を経て固相形成されるミクロ構造を記述するための速度論モデルの構築を目的とするものである.ここで提示される速度論は,高性能な熱電変換材料を製造するための基礎となるものである.研究の初年度である本年度は,サリチル酸アセトアミド系の透明有機溶液を供試した結晶成長過程の凝固シミュレーション実験を新規に立ち上げるとともに,実際のBi-Te系熱電合金を供試した過冷却凝固法による材料製造実験を行った.本年度で得られた主な成果内容を以下に示す. 結晶成長を観察するため,試料容器となる凝固セル,試料を融解・凝固させるための加熱・冷却系,ハイスピードカメラを用いた観察系,温度制御と測定系からなる装置を組み上げた.結晶の形態は,平らな面で構成される柱状あるいは針状のファセットとなり,それらは核生成点から過冷全域を放射状に自由成長し,やがて壁面冷却による一次元的な凝固へと変化した.ファセット状結晶の軸方向の成長速度は,温度勾配が大きいほど小さくなり,また過冷度が大きくなるほど大きくなった.円形セルでの実験に注目すると,過冷度の影響は軸方向よりもむしろ幅方向の成長に顕著に表れており,このことはファセット界面におけるカイネティクスの違いに起因するものと考えられる.さらに実際の熱電変換合金を供試した材料製造実験においては,過冷度の大きさや分布ならびに初期組成などの凝固パラメータに対する熱電性能の向上につながる結晶構造の指向性発現の条件が明らかにされた. 以上,化合物の結晶化プロセスの速度論構築の基礎となる実験的知見が得られた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,透明有機溶液を供試して化合物凝固の動的挙動を観察するための実験装置を製作し,実験によって,一様あるいは非一様な過冷却場を進行する自由結晶成長の様相がハイスピードカメラによる撮影により捉えられた.記録された映像の画像解析からは,結晶面による成長速度の差異,結晶数密度の変化,方向特性などが定量的に明らかとされた.また温度計測からは,冷却速度,過冷却の大きさと分布,凝固潜熱の発散による再熱などの熱的状態が明らかとされた.これらの結果をまとめて,成長速度や成長モフォロジーなどの動的挙動に及ぼす熱的操作条件の影響が実験的に明らかにされつつある.以上,研究の初年度計画の優先事項であった凝固シミュレーション実験が可能となり,形成される過冷却場の状態や結晶の成長速度等の分析によって,成長メカニズムの議論も進展中である.加えて,従来より継続的に進めてきた実際の熱電変換合金を供試した組織制御においては,代表者らが提案する新規の過冷却凝固法によって,熱電変換にとって有利な結晶構造の配向性を具備した材料を比較的高速に製造するための操作条件が概ね明らかとされてきている.以上のような理由から本年度の達成度を概ね順調に進展しているとした.
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Strategy for Future Research Activity |
実用熱電変換合金を供試した実験からは,熱電変換にとって有利な結晶指向性の発現は過冷却の温度勾配が大きくなるほど向上するものの,初期組成を熱電化合物の組成比に近づけた場合には,より大きな温度勾配が必要となることが明らかとされた.そこで,より効率的に材料方向特性を向上させるための方策として,凝固核生成の下地となる冷却壁面性状の影響について調査していく予定である. また,引き続き透明有機溶液を用いた凝固シミュレーション実験を行う.得られた結果から結晶成長メカニズムを明らかにするとともに,それを代表者らがこれまで進めてきた過冷却凝固の速度論モデルに組入れることにより化合物の結晶化プロセスの理論モデルを推し進める. 最終的には,実用合金による材料製造実験に速度論モデルによる数値シミュレーションを援用した相乗的な科学的手法によって,熱電変換効率の高性能化につながる凝固組織制御を進展させる方策である.
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Causes of Carryover |
初年度では,まず将来の組織制御の基礎となる凝固プロセスの全容を解明することを目標に,透明有機溶液を供試した模擬実験を優先課題として取り組んだ.この実験で使用するハイスピードカメラを含む観察システムを当初計画より安価に組むことができた.さらに次年度以降からは,今後の推進方策でも述べた新たな課題に対して,実用合金による材料製造実験を精力的に推し進める必要がある.そこで,実験装置の改良費,得られた試料の性能分析装置の充実費,ならびにEBSD法による結晶構造解析の外部依託費として約40万円を次年度に繰り越した.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
翌年度以降に請求する研究費と合わせた使用計画については,上記経費のほか,前年度に引き続き実験を行うための試料,組織観察用品,温度センサ,情報の収集と発信のための諸経費ならびに研究発表旅費等に使用する予定である.
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Research Products
(5 results)