2017 Fiscal Year Research-status Report
湿潤変動帯の山岳森林域における地ー植生構造とその進化的背景
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16K07509
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
酒井 暁子 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 教授 (20344715)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 地形的ニッチ / 系統的保存性 / 樹木の形質と戦略 / 撹乱耐性 / 地形構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)温帯山岳地の地形ー植生構造について、仮説にあげた2つの地形パターンが同時に検出され、これに該当する環境傾度2軸で主要樹木の分布(地形的ニッチ)が説明されることがわかった。このうち、東アジアで顕著と推定される第二のパターンが地形構造、ニッチの説明力とも卓越しているが、ニッチの系統的保存性は第一の地形パターン上でのみ検出された。前者が地表撹乱傾度、後者は生産力の傾度と見なすことができる。現在の樹木の分布パターンは、白亜紀から続く長尺での進化的産物に比較的最近の地形形成作用による影響が付加して形作られていると解釈できた(論文投稿中)。 2)地形の構成要素のうち地形的ニッチの進化に強く影響する要素、また地形的ニッチとリンクして進化している形質についてより詳細に調べるために、同属(カエデ属)内での種間比較を行った。その結果、各樹種の分布中心のラプラシアン、土壌C/N、岩石被度、および諸形質のうち幹傾斜については系統的保存性が有意であり、それらの地形構成要素と幹傾斜にはPGLMによって有意な相関があることがわかった(論文投稿準備中)。 3)2において谷に分布し幹傾斜が大きいとの形質を示したチドリノキの個体群維持機構に注目して調査解析を行った。調査の結果、本種は地表撹乱によって特徴付けられる微地形単位上に分布が限定されること、通常の成長の過程で萌芽幹を生産して次第に幹本数を増やし、加えて地表撹乱による損傷あるいはストレスへの応答として多幹性が強まること等がわかった。既報のフサザクラの対地表撹乱戦略と似ており、1の第二の地形傾度上における撹乱の卓越した谷の存在が、特異な戦略を持つ樹木ギルドの創出を介して東アジアの森林の生物多様性に貢献しているとの仮説を支持する(論文投稿準備中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
主題の湿潤変動帯の山岳地森林域の地ー植生構造とその進化的背景について、次項のように予定していた実験が実施できないといった課題はあるが、大枠ではこれに迫る結果を蓄積しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までに未達成の部分を含め、当初計画書に沿う形で研究を進める。 ただし実生を用いた実験については、これまでほとんどの樹種で結実状況が悪く実施できないでいる。今年は種子を得られるようにも推測しているが、今後の天候等にもよるので、必要なら夏までには計画変更を検討する。
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Causes of Carryover |
(理由)一昨年度と同様に昨年度も樹木全般の結実状況が悪く、予定していた繁殖に関する調査および種子の採取とそれを用いた実験を実施できなかったため。 (使用計画)種子の採取を含めた野外調査および圃場実験のための旅費、人件費、消耗品に使用。
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