2019 Fiscal Year Research-status Report
湿潤変動帯の山岳森林域における地ー植生構造とその進化的背景
Project/Area Number |
16K07509
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
酒井 暁子 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 教授 (20344715)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 地形的ニッチ / ニッチ進化 / 系統シグナル / 保守的ニッチ / 派生的ニッチ / 地形構造 / 地史 / 樹種分布 |
Outline of Annual Research Achievements |
各種が選択している地形的ニッチの歴史的背景を明らかにするために、丹沢山地の306ha集水域において出現頻度の高い樹種28種を対象に、1)PCAによって地形軸上の分布パターンを把握し、2)そのパターンの系統的保守性を検討した。 1)地形的ニッチ第1軸は、尾根/厚い土/緩い傾斜/高標高 ― 谷/薄い土/急な傾斜/低標高の傾度である(寄与率約45%)。先行研究も踏まえると、これは主に地表の安定性の違いに対応したニッチ配列であると解釈できる。第2軸は、尾根/薄い土/急な傾斜/北向き斜面 ― 谷/厚い土/緩い傾斜/南向き斜面の傾度である(同約30%)。これは植物にとって一般的に成長に係る資源量の傾度と解釈できる。 2)系統的距離とニッチの距離との相関関係、およびPagel’s λによって、地形的ニッチ第2軸上の位置、および個別の地形要素では土壌厚と斜面方位において、系統シグナルが検出された。針葉樹およびモクレン科と他の被子植物との関係など比較的上位分類群でのニッチ分化があり、またブナ目の中でブナ科とカバノキ科がこの軸上でニッチを分けている。一方で、地形的ニッチ第1軸には系統的関係性は見られなかった。 植物の分布とは独立に地形を評価した結果、この集水域の地形構造は上記のニッチ軸と同様の2軸で説明できることがわかった。山体の削剥過程でどちらも生じ得るが、第1軸の傾度が卓越することは、東アジア沿岸域の活発な地殻変動と多雨気候による河谷浸食の速さに起因すると考えられる。この状況が成立したのは植物の進化史においては比較的最近である。古典的な資源傾度上での保守的なニッチ選択に加え、新しく生じた環境傾度軸上でのニッチ選択が可能となり、不安定な地表への適応と関連する形質が様々な分類群で派生的に進化したことが、複雑で多様な地形-植生構造の形成要因と推察される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
局所スケールでの地形-植生構造がグローバルな意味合いで理解できるとの着想は、実績の概要に記述したように、当初の仮説とは異なる現象であるが、新たな発見として公表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
未公表の結果を論文として出版する。必要に応じて追加調査を行う。学会で報告する。
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Causes of Carryover |
新型コロナ禍により学会発表のための旅費が未使用となった。課題研究の充実のために、追加調査、実験および成果発表旅費に使用する。
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