2016 Fiscal Year Research-status Report
植物においてグルタチオン長距離輸送を担う輸送体が硫黄や重金属分配に果たす役割
Project/Area Number |
16K07639
|
Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
大津 直子 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40513437)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | グルタチオン / トランスポーター / シロイヌナズナ / カドミウム / ファイトケラチン |
Outline of Annual Research Achievements |
過去にインビトロの系でグルタチオン輸送活性が報告されていたシロイヌナズナAtOPT6について、植物体内での生理機能を知るために、変異株の解析を行った。独立な2系統の変異株両方について、鞘や花といったシンク器官でグルタチオン濃度が低下していることを確認した。過去の研究で、AtOPT6をコードする遺伝子は維管束で発現していることが知られていたため、グルタチオン長距離輸送との関連を知るために、篩管液中のグルタチオンを測定したところ、野生型株とatopt6変異株で同様であった。AtOPT6遺伝子の発現はシンク器官の篩部の周囲で強いことから、AtOPT6は、篩管を通って運ばれてきたグルタチオンをが、篩管からアポプラスト空間に出た後、篩部周囲の細胞に吸収する役割を果たすと考えられた。これにより、シンク器官での成長に必要な、硫黄や窒素源の取り込みに寄与すると示唆された。さらに、変異体では花茎の出現が遅れたことから、栄養成長から生殖成長への変換の制御にも、グルタチオン輸送が関連していることが示唆された。 有害元素であるカドミウムは、グルタチオンやその重合体であるファイトケラチンに縫合され、植物体内を輸送されると考えられている。AtOPT6の重金属輸送における機能を明らかにするために、atopt6変異株と野生型株を栽培する際の水耕液にカドミウムを添加した後、ファイトケラチン濃度を器官別に測定した。主要なファイトケラチンであるPC2含量が、atopt6変異株の花で減少していた。また、変異株においてカドミウムが根で蓄積していた。このことから、AtOPT6によるグルタチオンやファイトケラチンの輸送が、植物体内のカドミウム動態に影響を与えていることが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2つの独立な変異株系統を用いて確固な結果を得ることができ、篩管液中のグルタチオン濃度への影響を調べることにより、AtOPT6の生理機能をほぼ推定できた。またカドミウムの輸送についても、変異株と野生型株とでの違いが観察され、カドミウムを抱合するファイトケラチンにも違いがみられたことから、カドミウム動態への影響も示唆することができた。これらの結果について、論文を投稿する段階まで研究が進んだ。
|
Strategy for Future Research Activity |
AtOPT6は、研究開始前は篩管にグルタチオンを送り込む輸送体だと予想していたが、実際は篩管から出たグルタチオンを、ソース器官で取り込む輸送体であった。この機能は、成長点での窒素・硫黄を取り込む点でとても重要である。しかし、グルタチオンの長距離輸送をより活発化させ、成長点に送り込むためには、篩管に送り込む段階も促進することが有効だと考えられる。 このため、篩部伴細胞で発現し篩管に取り込む段階で機能するスクローストランスポーター遺伝子のプロモーターを用い、この下流にAtOPT6遺伝子をつなげシロイヌナズナに導入することにより、篩管と介したグルタチオン輸送を強化した植物を作成する。グルタチオンは細胞分裂、酸化物解毒の機能を持つことから、このようにして成長点へ活発にグルタチオンを送り込むことにより、成長促進等がみられる可能性があり、これを確認する。重金属輸送についても、ヒトにとって必須であり、不足しがちな亜鉛の輸送をグルタチオンが促進することが知られており、この可能性も、作成した形質転換体を解析することによって確認する。
|
Research Products
(7 results)