2017 Fiscal Year Research-status Report
Small RNAによるキチン分解利用遺伝子群の連動的発現制御ネットワークの解明
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16K07659
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
鈴木 一史 新潟大学, 自然科学系, 教授 (00444183)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 遺伝子発現 / small RNA / 応用微生物学 / キチナーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、small RNA(sRNA)がキチン分解酵素及びキチン結合タンパク質の生産・分解産物の取り込み・分解産物の代謝等の細菌におけるキチン分解利用系を連動的に制御する新たな遺伝子発現調節機構を解明することである。キチン分解細菌としてよく知られたSerratia marcescensにおいて、キチン分解利用系が発現していない時、sRNA ChiXがキチン分解酵素群の転写活性化因子ChiRをコードするchiRのmRNA 5′非翻訳領域(UTR)に結合して発現を抑制し、キチン分解利用系が発現する時、ChiXはキトポリンをコードするchiP のmRNA 5′UTRに結合することでchiRの発現抑制が解除される。つまり、ChiXはchiR mRNA 5′UTR からchiP mRNA 5′UTR にターゲットを変えることによって一連の制御が行われていると考えられる。このメカニズムを解明するため、chiP 5′UTRにトランスポゾンが挿入された株において、sRNA ChiXのターゲットであるchiP 5′UTR及びchiR 5′UTRをそれぞれプラスミド上で発現させ、chiR及びキチナーゼ発現への影響を調べた。その結果、chiP mRNA 5′UTR は安定であるが、chiR mRNA 5′UTR は不安定であり、後者の発現でchiRの発現抑制は解除されなかった。そこで、ChiXが塩基対を形成するchiP 5′UTRとchiR 5′UTRの相補配列を入れ替えて発現させたところ、chiP 5′UTR の相補配列が存在すればchiRの発現抑制が解除されることがわかった。ChiXが塩基対を形成する相補配列の位置と長さがchiRの発現抑制解除に影響することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はChiXがchiR mRNA 5′UTR からchiP mRNA 5′UTR にターゲットを切り替えるメカニズム解明を中心に研究を進めた。ターゲットであるchiR 5′UTR とchiP 5′UTR の領域に加え、それらのChiXとの塩基対形成に必要な一本鎖領域を入れ替えたターゲットをそれぞれプラスミドにクローン化し、これらの発現がchiRの発現抑制を解除するか調べた。この研究過程で、chiP mRNA 5′UTR上に存在するChiX との相補配列はChiXのターミネーターを超えて3′末端側にも及んでいる可能性が示され、さらにこの領域がchiRの発現抑制解除に影響を及ぼすことが示唆された。すなわち、このことはChiXのターゲット切り替えの新たなメカニズムの解明に繋がると考えられた。このように研究は新たな展開を迎えており、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
ChiX, chip mRNA 5′UTR, chiR mRNA 5′UTRの安定性及び結合機構:大腸菌やサルモネラのChiXはchbオペロンmRNAの遺伝子間領域に結合することで不安定化が生じ分解されるが、S. marcescensのChiXにはそのような機構は存在しないため、S. marcescens ChiXによるchiP及びchiRの制御機構には新たなメカニズムが関与していると考えられる。ChiXの2つのターゲットであるchiP mRNA 5′UTRとchiR mRNA 5′UTRは安定性および ChiXとの相補配列の位置と長さに相違がある。そこで、プラスミドにクローン化したchiP 5′UTRとchiR 5′UTRのそれぞれに塩基置換や欠失を導入して変異型ターゲットとなる5′UTRを発現させ、chiRの発現抑制解除への影響に加え、安定性等についても調べる。さらに、ChiXへの塩基置換や塩基の付加や欠失を導入し、同様にchiRの発現抑制解除への影響を調べる。特に、相補配列がChiXのターミネーターの前後と塩基対を形成する可能性とその影響に着目して研究を進める。これら重要な配列にはRNAシャペロンであるHfqが関与することが考えられる。 ChiXのターゲットの切り替えとHfqの関与:ChiXのターゲットの切り替えにはRNAシャペロンであるHfqが重要な役割を果たしていると考えられる。しかし、S. marcescensで構築したhfq破壊株は生育が極端に遅く、hfq破壊の影響が大きかった。このhfq破壊株を用いての実験は困難であったため、大腸菌もしくは他のSerratia属細菌にchiXやchiP 5′UTRの破壊を導入して実験系を構築し、Hfqが関与すると考えられるchiRとchiP 5′UTRへの変異導入実験を進める。
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