2017 Fiscal Year Research-status Report
命名規約、タイプ標本および分子系統に基づく日本産ヒノキ科樹木寄生菌類の再検討
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16K07785
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
本橋 慶一 東京農業大学, 国際食料情報学部, 教授 (10527542)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ヒノキ科 / 植物病原菌 / Phyllosticta / 分子系統解析 / 分類 / 同定 |
Outline of Annual Research Achievements |
我が国におけるヒノキ科樹木寄生菌類は、1878年以降に記載が始まり、これらの文献調査から少なくともヒノキ科樹木13属38種上に169属181種の糸状菌が確認されていることを明らかにした。特にヒノキ科樹木に特異的に寄生し、病害を引き起こすPhyllosticta属菌は種の再検討が必要であることが文献調査で明らかとなった。ヒノキ科樹木に寄生するPhyllosticta属菌の病害について、種の再同定・再検討、病原性、生理的諸性質、系統学的な位置の把握を行うために、昨年度に引き続き病害標本の収集および分離菌株の確立を行うと共に、病害リスクの検討を行うために病原性の把握を行った。 <本年度の研究目的> 昨年度に引き続き、文献の調査、病害標本の収集および分離菌株の確立を行うと共に、それらの病原性の確認、分離菌株のDNA抽出、分子系統解析による系統関係の位置の把握を行った。加えて、海外で分離され、日本国内では未報告のPhyllosticta属菌2種の分離菌株を輸入し、比較検討を行った。 <本年度の研究成果> これまでに、東京都、神奈川県、愛知県および青森県の1都3県7調査区で調査を行い、ヒノキ科樹木を中心として15科28属241標本を採集した。そのうち、ヒノキ科樹木を含む針葉樹3科20属27種から、Phyllosticta属菌の一種と同定された53分離菌株を確立した。これらのPhyllosticta属菌の形態的特徴、生理的諸性質および分子系統解析から、他属からPhyllosticta属菌へ転属すべき種があることが明らかとなる一方で、日本新産種となるPhyllosticta spinarum、P. thujae、P. paracapitalensisの3種を国内で初めて報告した。また、P. spinarumはアスナロ属にも病原性があることを明らかにし、病名の提案を準備している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では我が国のヒノキ科樹木の寄生菌、特にPhyllosticta属菌に着目して、研究の滞っている寄生菌の所属再検討および病原性について検討することを目的として、寄生菌の形態的特徴、生理的諸性質および分子系統解析による系統学的な位置の把握、病原性の確認を行う。 平成29年度では、昨年度に引き続き病害標本の収集および分離菌株の確立を行うと共に、これまで行われていないヒノキ科樹木寄生菌Phyllosticta属菌の病原性確認および分子系統解析による系統学的な位置の把握を行った。加えて、海外で報告のあるヒノキ科寄生菌Phyllosticta属菌2種を輸入し、我が国の既知種との比較検討を行った。これまでに、ヒノキ科樹木を含む針葉樹Phyllosticta属菌の一種と同定された53分離菌株を確立し、海外産の分離菌株および既知種を用いて研究を進めた。従来の形態学的特徴に加え、生理的諸性質、病原性および分子系統解析の結果から、Phyllosticta属菌は宿主属ごとに典型的な病斑を示す病原性のある1種が寄生することが報告されていたものの、ヒノキ科に寄生するPhyllosticta属菌は、ヒノキ科内の複数の属に渡って寄生することが確認され、従来の分類基準にはあてはまらないことが明らかとなった。一方で、転属処理が必要な種、日本新産種となるPhyllosticta属菌3種が確認され、ヒノキ科に寄生するPhyllosticta属菌としては、国内外で初めてP. spinarumの病原性を明らかにした。 ヒノキ科樹木に寄生するPhyllosticta属菌の種の定義や転属処理の実務的な課題があるものの、我が国のヒノキ科樹木におけるPhyllosticta属菌の把握が可能となった。これらのことから本年度の課題についてはほぼ計画通りに研究を進め、目的を達成した。本年度の研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年の研究として、ヒノキ科樹木に寄生するPhyllosticta属菌の分類学的再検討の最終的な取り纏めを行うこととする。従来の形態学的特徴に加え、生理的諸性質および複数領域における分子系統解析をさらに進める。我が国におけるヒノキ科樹木寄生菌、特にPhyllosticta属菌の分類学上、有効な学名となるよう、各種のType標本の選定を行い、論文化を進めることとする。また、今後、多くの研究者がヒノキ科樹木寄生菌の研究が行えるよう、論文の公表を進めると共に、採集した病害標本および分離菌株の公的機関への寄託およびシークエンスデータの公開を行う。
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