2016 Fiscal Year Research-status Report
魚類における放射性セシウム蓄積機構の解明:食物網仮説の検証
Project/Area Number |
16K07830
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
高井 則之 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (00350033)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
手塚 公裕 日本大学, 工学部, 講師 (60624575)
和田 敏裕 福島大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (90505562)
桑江 朝比呂 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, 港湾空港技術研究所, グループ長 (40359229)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 生態系 / 食物網 / セシウム / 魚 / 湖 / 福島 / ウグイ / コクチバス |
Outline of Annual Research Achievements |
放射性Csが食物網を介して魚類に蓄積する機構を解明するため,福島県桧原湖の堆積物と落ち葉・リターの放射性Cs濃度を分析すると共に,湖内で高い放射性Cs濃度が検出されているウグイとコクチバスについて,生息地利用特性と食物源の推定を行った.桧原湖で採取された堆積物の137Cs濃度は未だに高く,2807~8764 Bq/kgの範囲にあった.流入河川の落ち葉・リターの濃度は過年度より低下傾向にあったものの,最高で1706 Bq/kgの値が検出された.桧原湖では,依然として底生食物網に放射性Csが供給されやすい状況にあると考えられる.ウグイ3尾とコクチバス6尾について超音波テレメトリー実験を実施した結果,10月中旬から12月上旬にかけての期間中,ウグイは主に水面下0~20m層,コクチバスは主に0~10m層に生息していた.両種とも,水温が鉛直的に一様になるにつれて,生息水深帯が深くなる傾向にあった.食物源の推定のため,6月と10月に採集されたコクチバスの筋肉と胃内容物を摘出し,胃内容物分析と炭素・窒素安定同位体比分析に供した.筋肉の分析値から同位体の濃縮率を減ずることにより過去の餌生物の値を推定した結果,その値は胃内から検出された小魚,スジエビ,および昆虫の同位体比の中間的な値を示した.また,胃内小魚の同位体比分布を桧原湖のワカサギと底生魚類に関する同位体比データベース値と照合した結果,胃内小魚の同位体比分布は6月にはワカサギと底生魚類の双方の分布と重なっていたが,10月にはワカサギの分布とほぼ重ならず底生魚類の分布と重なっていた.この結果から,コクチバスは底生魚類からの栄養供給を少なからず受けていたと考えられる.コクチバスは水面下0~10m層の浅場で底生魚類などの湖底生物を捕食することにより,湖底物質の高濃度の放射性Csを取り込んだ可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
超音波テレメトリー調査,水温環境観測調査,安定同位体比分析,胃内容物分析,および放射性Cs濃度分析のいずれにおいても成果を得ることができたことから,おおむね順調に進展していると見なすことができる.超音波テレメトリー調査では,当初,実験個体が発信器装着後に畜養池内で死亡する事態が頻発してしまったが,秋季の水温低下で魚体のストレスが軽減されるのを待ってから発信器装着作業を再開したことにより,合計9個体を放流し有効なデータを得ることができた.同時期から水深帯毎の水温をデータロガーで自動記録する実験も開始し,有効な環境データを確保できた.安定同位体比分析と胃内容物分析は,刺網の試験操業により分析検体を確保できたコクチバスについて実施し,概ね良好な成果を得ることができた.放射性Csの濃度分析は,湖底堆積物,および流入河川の堆積物と落ち葉・リターについて実施し,これについても概ね良好な成果を得ることができた.超音波受信地点の不足やウグイのデータ不足など,次年度の課題は残ったものの,初年度としては多くのデータを得ることができたと考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度はウグイの実験個体を十分に確保できなかったので,現在,ウグイのデータが不足気味である.次年度は,水産試験場や漁業協同組合と協議してウグイ供試魚の確保に最善を尽くす予定である.また,超音波追跡個体の水平移動が当初の見込みより大きかったことから,受信機を新たに購入して受信地点の設置範囲を拡大する予定である.底生食物網に放射性Csを供給している可能性が高い落ち葉・リターについては,2016年度には流入河川の採集試料のみCs濃度分析に供した.次年度は,湖に入り湖底に沈積した落ち葉・リターを採集して,その濃度を分析する予定である.
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