2016 Fiscal Year Research-status Report
苗と害虫の低酸素濃度耐性の差を利用した無農薬害虫防除手法の確立
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16K08108
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
大山 克己 大阪府立大学, 地域連携研究機構, 准教授 (20456081)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 丈詞 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 特任准教授 (60708311)
矢守 航 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (90638363)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ナミハダニ / 防除 / 酸素濃度 / 生存率 / 産卵数 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、ナミハダニを化学農薬によらずに防除するとともに、薬剤抵抗性問題を回避する手法として、苗周辺のCO2 濃度を60%まで一時的に高める防除法(高濃度CO2 法)が開発され、イチゴにおいて実用化されている。他方、脱酸素剤を用いて0%まで低下させたO2 濃度にも殺ダニ効果があることが報告されている。ただし、ナミハダニにおいて、生存限界であるO2濃度を調査した例は見あたらない。そこで本研究では、化学農薬によらないナミハダニ防除法の開発のための基礎知見を得ること目的として、脱皮後1 日目のナミハダニ雌成虫を用いて、O2濃度が大気レベル(21%)よりも低い条件下における生存率および産卵数を調べた。具体的な処理区は、0%区(99.95% N2、0.05%CO2)、1%区(1.00% O2、98.95% N2、0.05% CO2)、2%区(2.00% O2、97.95% N2、0.05% CO2)および対照区(21.00% O2、78.95% N2、0.05% CO2)である。処理開始後1 日目におけるO2濃度0%の条件下でのナミハダニ雌成虫の生存率は0%を示し、対照区(O2濃度21%)のそれよりも低かった。一方、処理開始後7 日目までのナミハダニ雌成虫の生存率は、O2濃度1%、2%および対照区の間で差は見られなかった。ただし、処理開始後5 日目以降、O2濃度1%の場合のナミハダニ雌成虫の産卵数は対照区のそれよりも低くなった。以上より、ナミハダニ雌成虫の生存限界のO2濃度は1%未満であることが判明した。今後は、ナミハダニとともに植物に対するO2濃度の影響をあわせて調査し、化学農薬によらないナミハダニ防除法の開発を目指したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、研究実績の概要に記したように、害虫(ハダニ)におよぼす低O2処理の影響を解明しつつある。また、成果の一部は学会で公表した。それととも、現在、原著論文として国際誌に投稿する準備をしている。 他方、植物の低O2処理に関する研究は進めつつあり、近い将来成果を公表できる予定である。また、派生した研究も進めていて、害虫の食害による植物の光合成の低下を、ガス交換速度と電子伝達速度双方の計測により定量的に把握することができた。この結果に関しては、学術的に価値が高いものであり、近日中に結果を取りまとめたいと考えている。 これらのように、やや害虫におよぼす低O2処理の影響に関する研究が先行しているものの、植物におよぼすそれに関しても着実に結果を得ており、研究全体としては順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、研究期間内において、申請者の大山(代表者)が専門とする環境調節工学的手法を利用し、かつ、鈴木および矢守(分担者)がそれぞれ専門とする昆虫生理学および植物生理学的観点より、1)暗所における無O2処理が苗の生存率に及ぼす影響、2)低O2処理が害虫および苗の生存率に及ぼす影響、3)苗の生育に影響が少ないものの害虫を致死できるO2条件、に関して調査することを予定している。そして、そこで得られた知見を基盤とし、化学農薬によらない環境調節技術を用いた新たな防除法の確立を目指したいと考えている。現在、害虫におよぼす低O2処理の影響を解明しつつあり、成果をあげている。今後は、苗と害虫双方の低O2処理の影響を明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
研究費をより有効に使用するために、本年度では経費の圧縮を図った。具体には、ミーティングに必要とされた旅費の使用を差し控え、メールや電話等での打ち合わせに変更した。また、人件費・謝金の使用を差し控えた。これらは、使用している機器(クロロフィル蛍光測定装置)のメンテナンスが必要な時期にさしかかりつつあり、来年度にそれを実行することとしたためである。なお、その費用の見積をとったところ、本年度の経費を来年度の経費とあわせて使用した方が好ましいと判断された。そのために、本年度の経費の圧縮とともに、次年度への繰り越しをすることとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
クロロフィル蛍光測定装置(Imaging-PAM)のメンテナンスおよび改良に使用することを予定している。今回のメンテナンスおよび改良により、より精度の高い測定が可能になると考えられる。測定の精度向上は、本研究の推進の上で重要な役割を果たすものと期待されている。それゆえ、この装置のメンテナンスおよび改良は、必要不可欠である。
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Research Products
(3 results)