2016 Fiscal Year Research-status Report
菌根性きのこの胞子分離培養法および菌株保存法の開発による菌類遺伝資源の拡充
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16K08111
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
中桐 昭 鳥取大学, 農学部, 教授 (70198050)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 菌根菌 / きのこ / 胞子発芽 / 菌株保存 / 生物資源 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、難培養性である菌根性きのこの胞子発芽法を開発し、培養法を改良して菌株を確立すること、さらに、その長期保存法を開発して、様々な研究に利用可能な新たな生物資源を作り出すことを目指している。その達成に向けて、本年度実施した研究成果の概要は以下の通り。 1.胞子発芽誘導法の開発:自然界から採取した16属48種の菌根性きのこ子実体の担子胞子を用いて、胞子が発芽する培地を様々な培地を用いて探索した結果、Tricholoma属やAmanita属などの一部の菌種において、n-酪酸を添加したMNC培地が発芽誘導に効果があることが分かった。一方、n-酪酸の発芽誘導効果は、Suillus属、Russula属、Lactarius属では見られず、この効果は分類群に依存することが分かった。 2.菌糸体の培養法の開発:胞子発芽後の菌糸体の生育状況を各種培地で比較したところ、MNC培地で多くの菌種が良好な菌糸生育を示し、汎用性の高い培地であることが分かった。上記1で示したように、n-酪酸は発芽誘導には有効であるが、その後の菌糸成長には不適であること、発芽した菌糸をMNC培地に移植することで良好な菌糸成長が得られることが判明した。また、分類群によって菌糸生育に好適な培地が異なることが分かった。 3.菌株の凍結保存法の開発:培養株の長期保存が困難とされている菌根性きのこの分離株を用いて、培養基材としてパーライトや活性炭を用いた方法を検討したところ、活性炭法では、凍結前の前培養での菌糸成長が悪く、pHの弱酸性化処理でも改善できないことが判明し、開発を断念した。一方、パーライト法では、かなり良好な保存成績が得られたが、一部の菌種で前培養に問題があるため、今後新たな培養基材を用いて凍結保存性を検証することとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、H28年度は、胞子発芽法の開発、および、菌糸体の培養法の開発について研究を計画しており、上記の実施概要で示したように、ある特定の菌群では、n-酪酸が発芽誘導に有効であることが明らかになった。しかし、n-酪酸は菌糸成長にはやや阻害的に働くため、良好な菌糸成長を得るためには、発芽後に菌糸体をMNC培地などに移植する必要があることが分かった。また、寒天の代わりにゲランガムを用いた培地、子実体破砕液添加培地、酵母との共培養などには発芽誘導の効果は認められなかった。菌糸体の培養法としては、MNC培地が汎用性が高いことや、分類群ごとに好適培地は異なることが分かったが、各菌群の好適培地を特定・開発するには至らなかった。しかし、H29年度以降に計画していた菌株の凍結保存法の開発についても、予備的な検討を実施して、成果を得た。これらのことを総合して、H28年度の計画をおおむね計画通り実施できたと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度以降は、一部の菌群の胞子発芽を誘導したn-酪酸を添加したMNC培地、および、汎用性が高いことが判明したMNC培地を基本培地として、より多様な菌種の菌根性きのこの胞子発芽を検証し、この方法が適用可能な分類群を明らかにする。また、胞子発芽に成功した菌種を用いて、各種酵素処理、温度刺激、酸素・二酸化炭素濃度などの効果を検証し、より高い発芽誘導効果を示す処理方法を明らかにする。そして、その処理方法を用いて、これまで胞子発芽に成功していない菌群(Russula属など)の発芽誘導を試みるなどして、より広い分類群に適用可能な胞子発芽誘導法の開発を目指す。 また、より良い菌糸成長をもたらす培地および培養法について検証し、菌群ごとの生育好適培地を特定する。 さらに、樹立できた菌株を長期保存するために、パーライトや活性炭以外の多孔質の培養基材を用いて、また、各種凍結保護剤の効果を検証して、パーライト法を凌ぐ凍結保存法の改良を目指す。
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Causes of Carryover |
H28年度は、直接経費として220万円の交付を受けたが、使用したのは約170万円で、50万円ほどの残金となった。支出が計画より下回ったのは、購入を検討していた人工気象機の1台を別予算で整備することができたこと、また、採集旅費については、鳥取周辺での採集を繰り返し行ったため、また、鳥取県中部地震の影響で採集旅行を取りやめたことなどにより、旅費の支出がなかったことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H29年度は、H28年度残金約50万円とH29年度配分の直接経費予定額70万円と合わせて120万円となるが、培地類、凍結保存資材、菌株同定のためのDNA試薬類などの物品費(70万円)、学会発表(仙台市)のための旅費(30万円)、採集旅費(20万円)に使用する予定である。
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