2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K09140
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
中村 剛史 自治医科大学, 医学部, 講師 (20554554)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小谷 和彦 自治医科大学, 医学部, 教授 (60335510)
藍原 雅一 自治医科大学, 医学部, 講師 (80360080)
古城 隆雄 自治医科大学, 医学部, 講師 (70518787)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 地域医療 / 地理的アクセシビリティ / 地域偏在 / 位置情報 / 地理情報システム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、地域医療への地理的アクセシビリティの新規指標の特性を明らかにすることである。海外で医療の地域偏在の指標に用いられているThe enhanced two-step floating catchment area(E2SFCA)法によるアクセシビリティ指標に注目した。この指標はいまだ日本では社会適用されていない。さらに、E2SFCA法は住民の年齢構成の違いを反映しないため、年齢の違いによる医療ニーズを十分に評価できていないという課題が残っている。そこで、本研究では、年齢調整E2SFCA法(A2SFCA法)を新たに開発し、これを全国区で適用することで、その指標の特性を明らかにしていくことを目的としている。 E2SFCA法の算出には、地域医療機関の位置情報(緯度・経度)および属性情報(病床数・医師数)と、小地域レベルでの位置情報および属性情報(人口)と、それらの位置関係(相互の距離・移動時間)が必要である。そこで、研究初年度の平成28年度には、解析対象となる全国医療機関位置情報およびその属性情報、全国町丁字レベル位置情報およびその属性情報を入手し、地理分析可能なファイルで格納した。また、それぞれの位置関係を分析するための地理情報システム(ArcGIS 10.4)を運用できる研究環境を整えた。 まず、地理的アクセスの比較的安定した平地が広がる栃木県において、E2SFCA法によるアクセシビリティ指標を算出した。これを、従来の人口対病院数と比較検討した結果を論文にまとめ、関連英文誌に投稿した。また、国内外の研究会・学会で発表も行った。 解析を進める中で発生した課題について小修正を加えながら、一定に研究成果を挙げ、研究は順調に遂行されている。次年度には、解析対象地域を拡大し、当初予定した年齢調整法の解析を進める。地域医療の地域偏在の解消に向けた開発の一助にしていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では地域医療への地理的アクセシビリティ指標を用いて、小地域レベルでの地域医療の地理的偏在の数値化およびその指標の特性を明らかにすることを目的としている。 従来の地域医療の地域偏在の指標では、市町村が最小単位であった。本研究で用いた地理的アクセシビリティ指標では市町村単位より小さい町丁字レベルを地域単位として分析することができた。これによって、従来より細かい地域で地理的アクセシビリティを評価することができた。同一の市町村内部において地域医療へのアクセシビリティに違いがあり、市町村境界を超えて地域医療へのアクセシビリティに相同性があることが見受けられた。こうした特徴は、地域医療に関連する研究会・学会で発表し、論文にまとめられた(現在投稿中)。このような経過から、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。 その一方で、いくつかの点で小修正が必要であった。一つ目は、当初予定していた全国区での解析は電算処理上の限界のため一度には進められないことがわかった。これは、都道府県単位ないし地方単位に分割することで対応することにした。二つ目は、年齢調整法による指標が、年齢調整前との間で意義のある違いがなかった。これが対象地域の個別の特性なのか、他の地域でも同じ特性なのか、次年度以降の解析で検討を進めていく。三つ目は、位置情報を地図上に示す場合の位置参照において一定の誤差があることがわかった。巨視的に扱う場合には結果に影響を及ぼすほどの誤差ではないものの、小地域で解析する場合には注意が必要になる。誤差を最小限にする工夫、解析結果が信用できる地域単位の範囲などの追加解析が検討される。さらに、当初予定していた地域医療データバンクの情報が組織の改組により利用不可となった。いずれも小修正することによって、研究本体の遂行への障壁となる課題ではない。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は、特定の県を対象に、地域医療の地理的アクセシビリティ指標を算出した。従来の指標と比較して、より小さい地域単位で解析することによって、地域性を詳細に観察することができた。また解析を進める中で、いくつかの小修正の必要な課題を見つけることもできた。最終的には、地域医療の地理的偏在の解消につなげていきたい。 まず、本年度進めた栃木県における地域医療アクセシビリティ指標の特性に関する論文(投稿中)を出版に持ち込む。次いで、現在着手している複数の県における地域医療アクセシビリティ指標およびその指標を用いた地理的集積性の検討の結果をまとめる。これまでの検討で、県境は自ずとさまざまな社会基盤へのアクセシビリティが悪いことがわかっている。複数の県を対象とすることで、それらの県境の地域医療へのアクセシビリティを評価しうる。わが国では地域医療構想を都道府県単位で策定することになっているが、県境問題を浮き彫りにすることができるだろう。さらに、地理的集積性を見た目ではなく、空間疫学的手法を用いて数量で示す。地域偏在を科学的に示すことで、従来の無医地区や医療過疎地区の評価を裏付けることができるだろう。 また、日本が直面する超高齢社会とさらなる高齢化に対応するため、年齢調整法による地理的アクセシビリティ指標の検討を進める。同年代の場所の違い(空間)、同一場所の年代の違い(時間)といった時空間の比較に有用である可能性がある。 そして、全国を対象とした解析へと進める。現時点では、国土の広い北海道、人口や医療機関の多い都心を対象とした場合に電算上のエラーが発生する。エラーの発生状況を精査し、課題や対応策を明らかにする。 こうして得られた成果を、関連の研究会・学会、学術誌上で発表していく。合わせて地域医療構想など地域医療への社会適用にあたっての利点・課題を関係者と議論する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額のうち、旅費の差額が最大の要因である。これは、当該年度の研究成果の発表が次年度になったことが要因である。これには英文誌への論文発表、国際学会での発表が含まれる。論文は当該年度のうちにすでに投稿しており、現時点では査読の結果を待っている。国際学会での発表は、4月末にオーストラリアで開催されるWONCA World Rural Health conferenceから、当該年度のうちに演題採用の返事を受けている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は、すでに英文誌に投稿した論文の英文校正および掲載料等に使用する。また4月末にオーストラリアで開催される国際学会に出席し、研究成果の発表および情報交換のために使用する。5月に国内で開催されるプライマリ・ケア関連の学会でもすでに発表採択の通知を受けており、同様の目的のため旅費を使用する。 さらに研究を安全にかつ効率的に進めるためのデータベースソフトウェア、研究の精度を高めるためのアプリケーションソフトウェアの導入を行う予定である。
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