2016 Fiscal Year Research-status Report
トロンビン受容体を標的とする新規肺高血圧治療法の開発
Project/Area Number |
16K09518
|
Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
平野 勝也 香川大学, 医学部, 教授 (80291516)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 肺高血圧症 / トロンビン受容体 / 治療薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
モノクロタリン法によりラット肺高血圧モデルを作製し、血行動態解析、病理解析を行い、有効な肺高血圧モデル作製に必要なモノクロタリン皮下注の用量(60 mg/kg)と病態完成までの期間(2~3週)を確定した。さらに、摘出肺灌流標本を作製し、トロンビン受容体刺激薬による昇圧反応が、モデル動物で亢進していることを明らかにした。また、正常肺動脈におけるトロンビン受容体PAR1の発現レベルは、体循環系動脈(頸動脈、大腿動脈、上腸間膜動脈、腎動脈)よりも有意に高く、モノクロタリンモデルにおいて有意に亢進することを、リアルタイムPCR解析において明らかにした。平成28年度の研究において、モノクロタリン誘発肺高血圧ではトロンビン受容体の発現とトロンビン受容体を介した肺動脈収縮反応性が亢進しているとする初めての知見が得られた。また、正常の肺動脈においてトロンビン受容体の発現が体循環系動脈における発現よりも高いという新たな知見は、これまで申請者が明らかにしていた、トロンビンに対する収縮反応に関する肺動脈の特性を裏付ける知見となった。 トロンビン受容体PAR1の遺伝子欠損マウスを導入し、モデル実験に使用するためのホモノックアウトマウスを供給する体制を整えた。 培養平滑筋細胞A7r5において、凝固第XI因子がトロンビン受容体PAR1を活性化し、カルシウムシグナル伝達を引き起こすことを世界で初めて明らかにした。肺高血圧症の病態において凝固活性が亢進している。この研究成果は、肺高血圧症の病態形成に関わる新たな因子の発見につながる成果ととらえられる。 培養内皮細胞を用いて、トロンビンが引き起こす内皮バリアー機能障害の初期時相に、低分子量G蛋白質RhoAとその下流のシグナル伝達因子Rhoキナーゼが関与することを、HMG-CoA還元酵素阻害剤とRhoキナーゼ阻害剤を用いて明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
肺高血圧モデル実験によりトロンビン受容体の発現と機能(肺動脈収縮作用)が亢進していることを世界で初めて明らかにしたこと、内皮バリアー障害の初期時相にRhoAおよびRhoキナーゼが関与することを明らかにしたこと、PAR1ノックアウトマウスの繁殖体制を整えたことから、本研究課題が研究計画に沿って順調に進展していると判断した。 一方、凝固第XI因子が平滑筋細胞において、トロンビン受容体PAR1を活性化して、細胞内にカルシウムシグナルを発生させるという世界初の知見は当初予想していなかった画期的な成果である。
|
Strategy for Future Research Activity |
モデル動物実験では、確立したモノクロタリン誘発肺高血圧モデルを用いて、トロンビン受容体拮抗薬の予防的効果と治療的効果を検証する。実際の肺高血圧治療への応用を目指してて、モデル動物において有効な投与量、投与方法を確立する。さらに、VEGF受容体阻害剤を用いた別の肺高血圧モデルを用いて、トロンビン受容体の阻害薬の治療効果の普遍性を検討する。 安定供給体制が整ってPAR1ノックアウトマウスを用いて、肺高血圧モデルを作製し、病態形成に及ぼす影響を解析する。マウスにおける肺高血圧モデル作製法は、初めに低酸素飼育から実施し、結果によっては別のモデル作製法を試みる。 肺高血圧症発症の遺伝素因であるBMP受容体Ⅱとトロンビン受容体との相互作用を明らかにする研究を開始する。BMP受容体のアゴニストおよびBMP受容体Ⅱの発現抑制実験を行い、トロンビンが引き起こす内皮機能障害に及ぼす影響を明らかにし、両者に機能的相互作用があるか否かを判定する。 凝固第XI因子による血管平滑筋細胞内のカルシウムシグナルの発生機序を、薬理学および遺伝学的手法を用いて明らかにする。
|
Causes of Carryover |
物品費は96%を使用し、ほぼ計画通りに予算を執行した。旅費は80%の予算執行により当初予定の学会発表を行うことができ、少額の残額が生じた。次年度使用額の発生に大きく関与した費目はその他の経費であった。これは、PAR1ノックアウトマウスの繁殖体制を整えたものの、出産後の親マウスによる仔マウスの大量食殺などの予期せぬ事象が起こり、繁殖数の増加が予想を大きく下回ったことによる。そのため当初予定の13%の支出にとどまった。直接経費全体ではその88%を使用しており、ほぼ予定通りの予算執行であったと判断している。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後増えると予想されるPAR1欠損マウスおよび動物実験で使用するラットなどの飼養経費として使用する。
|
Research Products
(6 results)