2016 Fiscal Year Research-status Report
麻疹ウイルス感染実験系をモデルとした神経系ウイルス感染症に対する新規治療法の開発
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16K09994
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
綾田 稔 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 准教授 (90222702)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小島 裕正 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (40336772)
瀬戸 俊之 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (60423878)
桑村 充 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 准教授 (20244668)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ウイルス / 麻疹ウイルス / 亜急性硬化性全脳炎 |
Outline of Annual Research Achievements |
組換え麻疹ウイルスを用いて、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)の脳内感染拡大のメカニズムを明らかにし、SSPE株に生じた特徴を利用した組換えウイルスを重感染させることによって、実験動物感染実験モデルでSSPEを治療することを第1の目的として研究を行っている。 本来麻疹ウイルスはN、P、M、F、H、Lの6つの遺伝子からなる1本鎖、非分節型のゲノムを有するウイルスであるが、人為的に分節型の組換え麻疹ウイルスの作製が可能であることが報告されている。今年度は、N、P、M、L遺伝子からなるプラスミドと、F、H遺伝子、およびマーカーとして緑色蛍光蛋白をコードするhrGFP遺伝子からなるプラスミドより、2分節からなるウイルスの作製を試みた。その結果、全て野生型のIC-B株に相当する2分節型のウイルス(IC/NPML+FHhrGFP)と、そのうちF遺伝子のみがSSPE大阪1株に相当する2分節型のウイルス(IC/NPML+F[OSA1]HhrGFP)を作製することに成功した。ウイルスを作製する際に、細胞融合の出現がより早く観察されたことから、ウイルスの複製が1本鎖のゲノムの場合よりも速いことが示唆された。作製された2種類のウイルスについてin vitroの感染実験で比較したところ、SSPE大阪1株のF遺伝子を有するウイルスIC/NPML+F[OSA1]HhrGFPはVero細胞に感染して細胞融合を引き起こすことが示された。これは非分節型のウイルスで証明された性質と同一であった。 また、分節型組換えウイルスIC/NPML+F[OSA1]HhrGFPをハムスターの脳内に接種して、病原性の有無を検討した。その結果、感染3日後にハムスターは過敏、けいれん等の神経徴候を呈して発症し、3-5日後に死亡した。これは、非分節型のウイルスで以前に証明された結果と同様であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2つのゲノムからなる分節型組換え麻疹ウイルスの作製に成功した。今回作製した以外のウイルス株、遺伝子の組み合わせからなる別のコンストラクトについても検討が必要であるが、今回作製された組換えウイルスはin vitro、in vivo共に、当初の予想通りの性質を示した。一方、H蛋白の変異と神経病原性との関連に関する検討は、変異を導入したウイルスの作製に未だ達していないため、原因となる変異の特定には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、作製されたSSPE大阪1株のF遺伝子を有するウイルスIC/NPML+F[OSA1]HhrGFPの性状について、培養細胞における増殖曲線、通常のウイルスとの重感染の可能性、干渉作用の有無について検討する。また、普遍性を検討するために、SSPE大阪2株のF遺伝子を有するウイルスIC/NPML+F[OSA2]HhrGFPやN、P、L遺伝子とM、F、H遺伝子との組み合わせからなるウイルスの作製を行って、in vitro、in vivoの実験で比較検討する。重感染したウイルスを判別するため、赤色蛍光蛋白を発現する遺伝子を組み込んだウイルスについても作製する予定である。 次に、P遺伝子の変異とインターフェロン応答への影響を検討する。SSPE大阪1株および大阪2株のP遺伝子の変異を解析し、通常の麻疹ウイルス、ワクチン株由来でインターフェロン活性の欠損が報告されているEdmonston-tag株、SSPE由来の大阪1株および大阪2株よりP遺伝子のプラスミドへのクローン化を行う。P遺伝子にはP、V、Cの3種類の蛋白がコードされていることから、このプラスミドよりP蛋白のみの発現、V蛋白のみの発現、C蛋白のみの発現プラスミドを作製し、それぞれのウイルス由来の蛋白についてインターフェロン応答の解析を行って比較検討する。そして、この組換えウイルスをSSPE株感染細胞に重感染させてP遺伝子の変異の影響を培養細胞における感染実験、およびハムスターへの感染実験系で検討する。 また、遺伝子欠損型の組換え麻疹ウイルスを作製するためのN、P、L蛋白発現細胞の作製を開始する。この目的を達成するための方法として、レンチウイルスベクターを利用する。ベクターへの麻疹ウイルス遺伝子の挿入を行い、細胞への導入を試み、発現を確認する。
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Causes of Carryover |
概ね当初の計画どおりに進行しているが、備蓄の試薬・消耗品の利用が可能で、組換えウイルスの作製および動物実験に要した経費が少額であった。残額は次年度に繰り越して使用することが適切と判断した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究費は、組換えウイルスの作製および動物実験に使用する他、塩基配列の決定等のための消耗品に使用する。特に新たな高額備品は必要ではないが、不可欠な備品の修理の必要が生じた場合には修理費に当てる。また、これまでに達成された結果をまとめて論文にするため、論文の校正・投稿・掲載のための費用を予定している。
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