2016 Fiscal Year Research-status Report
口蓋裂術後の言語障害の視覚的フィードバックを目指す新たな音声可視化システムの構築
Project/Area Number |
16K11694
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
手塚 征宏 鹿児島大学, 医歯学域歯学系, 助教 (50759777)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三浦 尚子 鹿児島大学, 医歯学域附属病院, 言語聴覚士 (50715331)
坂田 聡 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 助教 (80336205)
上田 裕市 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (00141961)
中村 典史 鹿児島大学, 医歯学域歯学系, 教授 (60217875)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 口蓋裂言語 / 鼻咽腔閉鎖機能 / 視覚的フィードバック |
Outline of Annual Research Achievements |
口蓋裂手術後の鼻咽腔閉鎖機能不全は開鼻声や異常構音の主因となり、不明瞭な言語はコミュニケーション障害を引き起こす。ほとんどの症例が良好な鼻咽腔閉鎖機能を獲得するが、10%前後の症例は軽度不全~不全を呈する。また約7割の口蓋裂術後の子どもたちが正常言語を獲得する一方残り3割の子どもたちは異常構音を発現しており、言語訓練を受けている。これら異常構音は鼻咽腔閉鎖機能に関連して起こるものが多く、鼻咽腔閉鎖機能不全による開鼻声や異常構音に対する評価、そして治療アプローチを確立することは非常に大切なことだと考える。 平成28年度は、まず母音の分析を行い、その後異常構音別の分析を行うことを計画した。先天異常のない健常児を対象に母音を復唱してもらい録音し、熊本大学へ音声データを送り、色別に表現した。これは第1~3ホルマント周波数を三原色信号に変換し、母音の音韻性を固有の色彩として表示するものである。次に、当科で言語治療を行っている口唇口蓋裂患者を対象して鼻咽腔閉鎖機能の良好群、不全群に分け、健常児と同じく熊本大学へ送り、視覚的に色別に表現した。その結果、健常群の5母音を色彩表示すると、/a/が黄色、/i/が青色、/u/が薄緑色、/e/が紫色、/o/が緑色となった。鼻咽腔閉鎖機能良好群の5母音は、健常群と類似の色彩イメージが得られた。鼻咽腔閉鎖機能不全群の5母音は、健常群と比較して、/a/が薄緑色、/i/、/u/、/e/、/o/が薄青色となり、異なるイメージであった。健常群と鼻咽腔閉鎖機能良好群は同系色であったが、鼻咽腔閉鎖機能不全群は異なる色彩イメージを呈したことから、鼻咽腔閉鎖機能の評価方法として音声可視化システムが有用であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでの研究成果をもとに、本研究は音声可視化システムを用いた音声解析を口蓋裂術後の子どもたちの音声データを用いて行い、鼻咽腔閉鎖機能の評価や鼻咽腔閉鎖機能不全に対する訓練法の確立を目指して行う。平成28年度の研究期間内には以下の事を明らかにすると計画を立てた。①健常児群の音声データを収集し、音声可視化システムを用いて、音声の解析を行い健常児の母音のバランスチャートを作成する。②口蓋裂手術後鼻咽腔閉鎖機能良好群、口蓋裂手術後鼻咽腔閉鎖機能不全群のそれぞれの音声データを収集し、同様に母音のバランスチャートを作成し、健常児群とどのような違いがあるか検討する。③異常構音を呈する群(声門破裂音、口蓋化構音、側音化構音)の音声データを収集し、異常構音別にバランスチャートを作成し、健常児群とどのような違いがあるか検討する。 平成28年度は①、②については学会発表を行うことができ、データをまとめることはできたが、まだ論文投稿には至っていない。これはデータの数を増やしてから、論文投稿を行うことを考えており、データ収集に時間を要しているためである。また、③については、異常構音は子音を含むため、バランスチャートでは評価、検討しにくいので、再度評価方法を検討している最中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画として、まずは母音の分析について論文にまとめて投稿することが第1優先である。そのあと、異常構音の分析のための子音の分析、評価方法について検討しなければならない。現在のところ、熊本大学に設置されている構音点、構音様式を判定することができるニューラルネットワークシステムという子音の分析システムを用いる予定である。 今後は、実際の訓練場面ではリアルタイムに音声の視覚化されたものを子どもに見せながら、発音と同期させ、リアルタイムに自分の音声がどのようなパターンになるかを、自分自身にフィードバックさせながら自己修正を促していくような訓練を行っていく。例えば、母音を発音させると、波形がリアルタイムで出現する。別の画面には健常児のパターンを見せておき、そのパターンに似せるように訓練を行う。さらに構音訓練では、正中矢状断で構音点が示されることで、視覚的に子どもたちが理解しやすくなり、訓練者も構音点を指示しやすくなると考えている。研究で得られた知見から、さらに確立された評価およびフィードバック体制を発展させていく予定である。そして、最終的には長期間言語治療に通う口蓋裂患者の治療期間の短縮につながり、さらには口蓋裂患者のみならず、口腔癌で舌などの構音器官を切除した患者など、他の疾患による言語障害の治療にも十分応用可能であると考えられる。
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Causes of Carryover |
当初は物品費で予算を計上していたが、熊本大学での分析が可能であり、平成28年度は購入を控えたため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新たな評価方法を行えるように、機器が必要であれば購入費用に使用したいと考える。
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Research Products
(2 results)