2016 Fiscal Year Research-status Report
同一地区で被災した世帯の社会学的縦断調査:生活再建の多様性と地域変容
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16K12383
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
西野 淑美 東洋大学, 社会学部, 准教授 (30386304)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石倉 義博 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (60334265)
平井 太郎 弘前大学, 大学院地域社会研究科, 准教授 (70573559)
秋田 典子 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 准教授 (20447345)
永井 暁子 日本女子大学, 人間社会学部, 准教授 (10401267)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 東日本大震災 / 岩手県 / 釜石市 / 住宅再建 / 居住地選択 / 土地区画整理 / 町内会 / 縦断調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、東日本大震災で甚大な被害を受け、地区の一部で復興土地区画整理事業が実施されている釜石市A町内会の会員世帯に、2012年から聞き取り調査を繰り返し、生活再建への道のりを追跡している。2015年までは震災時会員世帯の約4分の1に毎年聞き取りを行ってきたが、2016年からは住宅再建済みの世帯については調査頻度を落とし、その分これまで聞き取りを行っていなかった会員世帯と、震災以降にA町内に転入してきた世帯を聞き取り調査対象に加えることで、得られる情報の範囲を広げた。 震災から5年半が経った2016年夏の調査時点では、震災後に自宅が修理可能だった世帯や、区画整理外の地域で住宅再建を行った世帯は、生活上の落ち着きを取り戻している旨の発言が多く見られた。A地区を含む地元の祭りも前年から復活した。一方、前年度に仮設住宅に居住していた世帯のほとんどは状況に変化がなく、恒久住宅に移動できていなかった。ただし、復興公営住宅への入居申込者は入居先住宅が概ね決まり、区画整理事業の土地引き渡し時期もかなり具体的に予定が示されてはいた。 これまでの調査からは、住宅再建にあたって、広い意味での「資源」の調達が多様に行われる様子が浮かび上がりつつある。例えば、別世帯だった親世帯と子世帯が協力を模索して再建が可能になったケースが見られる。また、売地の情報が個人的ネットワークを介して流通する傾向があるため、親戚や知人の縁が再建先の土地入手の重要な資源となる場合もある。一方で、再建資金のめどが立たないのに、復興公営住宅を選ぶことに踏み切れないケースでは、親世帯と子世帯の意向のずれや、地域社会における役割との関連が考えられる。多様な資源とその動員可能性の複合によって各世帯の再建判断が形作られる様子が詳細に記録できていることは、長期追跡の成果であり、分析成果を学会等での報告や論文投稿に反映させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は釜石市A町内会の震災時会員全195世帯のうち50世帯弱に対して聞き取りを継続している質的縦断調査であり、2016年度は40世帯に聞き取り調査を行った。その内訳は(1)震災前のA町内会会員世帯のうち聞き取り調査を継続してきた世帯から22世帯、(2)同会員世帯のうちこれまでは質問紙調査のみで聞き取り調査を行っていなかった世帯から10世帯、(3)A町内に震災以降に転入してきた世帯から8世帯である。 (1)については、これまで調査を継続してきた世帯の約半数にあたる。震災から5年半が経ち、特に住宅再建が済んだ世帯は、毎年調査に応じることを負担に感じるケースも見受けられる。そのため、住宅再建済みの世帯については2年に1度のペースで調査を継続することとした。その分、新規に(2)と(3)を加えたことで、調査に厚みがもたらされた。よって、世帯の内訳は若干変わったが、調査としては順調である。 (1)(2)(3)の計40世帯には8月上旬に訪問してアポイントをとった上で、8月下旬か9月中旬に各世帯約1-2時間の聞き取り調査を実施した。半構造化インタビューにより、(1)の世帯には、現住地での生活における気がかりや希望、家族や仕事の状況、住宅再建の見込みと居住予定地、鵜住居町または釜石市にとっての最大の課題、現時点で最も強く思うことなどを聞き取った。(2)(3)の世帯には、(1)の内容に加え、地震発生時とその後の避難生活についても尋ねた。2016年度調査の報告書は2017年度に印刷し、配布する。 調査成果の公表も順調に進んだ。2015年度調査の報告書を2016年8月に発行し、調査対象世帯および関係者に届けた。また、日本都市学会大会での報告のほかに、家族社会学会の研究会や、日本社会学会震災問題情報連絡会の研究交流会でも報告を行った。学会誌への査読付論文の掲載も確定した。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度は、まず4月末に各世帯を訪問し、2016年夏に聞き取った内容を抜粋して作成する報告書について、調査対象者本人による内容確認を依頼する。8月前半には、2016年度までの調査対象世帯を訪問し、2016年度調査の報告書を手渡す。また並行して、震災前の釜石市鵜住居町A町内会会員世帯のうちこれまで聞き取り調査を行った世帯に、調査のアポイントを取る。ただし、前述のように住宅再建済みの世帯については2年に1度のペースで調査を継続することとしたため、一部の世帯については2017年度は調査を行わない。そして、8月後半から9月にかけて、前年度からの生活の変化や、その時点での住宅再建や居住予定地の見込み、課題・思いなどについて、1世帯につき1-2時間の聞き取り調査を行う。また2018年3月をめどに、2017年度調査の報告書案を作成し、調査対象者本人に内容確認を依頼する。 なお、2012年度から6年間の再建の道のりと心情の変化を分析するため、単年度の調査報告書とは別に、経年比較の調査報告書の作成を検討する予定である。
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Causes of Carryover |
研究分担者のうち1名は、今年度は別の方法で釜石市までの旅費を賄うことができたため、旅費に充てる予定であった分担金を次年度に繰り越して使用することとした。また、別の研究分担者は、本調査の報告書の印刷費用を分担金から支出したところ、残額が旅費に充てるには不足したため、旅費は別の方法で賄い、残額は次年度に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当該研究分担者が、次年度の旅費等の支出時に合わせて使用する。
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Remarks |
「『釜石市A地区町内会の皆様への聞き取り調査』第4回調査(2015年夏実施)報告書」を2016年8月に発行。※「釜石市A地区」は本来は地名だがウェブでの公開に当たり伏せている。
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