2017 Fiscal Year Research-status Report
自然科学と社会科学の融合による都市の環境共生と野生動物管理の調和的実現への挑戦
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16K12662
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Research Institution | Rakuno Gakuen University |
Principal Investigator |
佐藤 喜和 酪農学園大学, 農食環境学群, 教授 (60366622)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮内 泰介 北海道大学, 文学研究科, 教授 (50222328)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 環境と社会活動 / 都市の野生動物管理 / 環境共生 / カメラトラップ / 理想専制分布 / 社会的地位 / 個体数 / 市民参加 |
Outline of Annual Research Achievements |
札幌市は環境共生都市の実現を目指す一方でヒグマの市街地出没が増加しており,環境共生の理念と矛盾しない都市の野生動物管理が求められている.世界に例のない「100万都市におけるヒグマとの共生」を究極目標に,自然科学的手法と社会科学的手法の融合による共生策のグランドデザイン提案を目的とし研究を行った. 札幌市市街地周辺におけるヒグマの生息実態をカメラトラップ法により調査したところ,撮影されたヒグマはほぼ亜成獣と親子でありオス成獣は少なかった.過去2年の調査と同様の傾向であり,市街地周辺に滞在・利用している個体は,主に社会的劣位個体であるといえる.札幌市内の奥山で同様の調査をしたところ,オス成獣が多く確認された.このように分布中心部を社会的優位個体が,周縁部を劣位個体が多く利用する例は,個体数増加中の個体群で知られ,理想専制分布の例として解釈されている.市街地付近に魅力を感じているのではなく,社会的優位なオス成獣がいないという理由で劣位個体が周縁部を選択しているため,すぐ深刻な軋轢には発展しないと考えられた.ただし,市街地周辺で毎年複数個体が繁殖していることから,市街地付近が安全で魅力的な場所と学習させることのないよう,出没を未然に防ぐ誘引物管理と,出没初期の追い払いなどの対策が求められる. 社会科学的な手法として,市民参加による過去にヒグマが市街地に侵入した河畔林を生物多様性に配慮しながら管理する活動の参加者,ヒグマ出没があった町内会への聞き取り調査を行った.またマスコミを通じてヒグマの市街地付近への定着を動画ニュースとして配信した.身近にヒグマが定着していてもそれを実感しにくい日常生活があること,地域と行政が信頼関係を高め地域主体の出没未然防除を進めるために,ヒグマに関する正しい情報の普及,出没時の即応体制,出没後の適切なフォローアップが求められていた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
札幌市市街地周辺と奥山に生息するヒグマの生息動向に関しては,カメラトラップを用いた調査は順調に実施することができ,市街地周辺定着個体の数や性齢クラス,繁殖実態を把握することができた.DNA分析については,被毛試料回収は順調に行うことができたが,個体識別に成功した試料数は少なかった.複数個体の被毛が同時に回収されてしまうなど,試料のコンタミネーションが多いことが原因と考えられた. 社会科学的な調査については,市民参加イベントへの参加や聞き取り調査を通じて,地域が望む環境共生を念頭に置いた環境整備の中で,ヒグマ管理という視点をうまく盛り込んでいくことの必要性を感じた.まだ地域や地域の指導的立場の方による感じ方・考え方の違いが大きいことも明らかになった.新たな試みとして,カメラトラップ調査で得られた動画を新聞社やテレビ局に提供し,記事やニュースでの報道だけではなく,web上でいつでもアクセス可能な動画ニュースとしての配信を行った.多数のアクセスがあり,札幌市街地付近に生息するヒグマの実態の普及に貢献できた一方で,身近に出没が発生した地域では,身近にヒグマの存在を認めることと地域主体の対策を実施するまでの間にはギャップがあるようであった.
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Strategy for Future Research Activity |
札幌市市街地周辺と奥山に生息するヒグマの生息動向に関しては,カメラトラップを用いた調査を次年度も継続して実施することで,中心部と周辺部における個体群空間構造の異質性を一般化するとともに,ここで採用している調査手法によって生息数の動向や性齢クラス構成の変化の有無,繁殖指標などのモニタリング体制を確立する.DNA分析成功率を向上させるため,次年度は被毛試料採取の間隔を短くすること,DNA抽出方法を再検討する.個体識別に基づく最低確認個体数はカメラトラップによるモニタリングを補強する.また個体間の血縁関係推定を試みることで,過去10年間に分布拡大と市街地周辺への定着が進んだ実態を,特にメスの分散という視点で整理したいと考えている. 社会科学的調査では,札幌市街地にヒグマが出没するようになってから今日までのヒグマ対策を進める上で生じた様々な問題とそれを解決してきた方法などについて,行政や地域の方々への聞き取り調査を通じて明らかにしていく.次年度は聞き取り調査の対象を増やし,100万都市におけるヒグマとの共生のために行政や専門家に求められる対応について明らかにしていく必要がある.市街地周辺にヒグマが定着している現状を普及啓発することと,そうした地域に暮らす上で求められる地域主体のヒグマ未然防除の実施との間のギャップを埋めるために必要なことは何かを,聞き取り対象を増やしながら検討する.
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Causes of Carryover |
野外調査時のレンタカー代・ガソリン代が,見込みよりも少なかった。次年度の野外調査にてその分も含めて支出する予定である。
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Research Products
(4 results)