2016 Fiscal Year Research-status Report
ディスポゼッションと複雑性の理論に基づくヴァイマール共和国時代の群集表象の再検討
Project/Area Number |
16K13210
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
海老根 剛 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 准教授 (00419673)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 群集 / ヴァイマル共和国 / 共同行動 / ドイツ文学 / 言説史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は研究実施計画にもとづいて、主に近年世界各地の都市で展開する新しいタイプの集団的な抗議行動を主題とする政治哲学や現代思想の研究成果を概観し、そのような研究からヴァイマール 共和国時代の群集論の考察に寄与する理論的視点と概念装置を導き出すことを目指した。 特に重点的に検討したのは、ジュディス・バトラーによる人々の共同行動の可能性を考察した一連の仕事におけるディスポゼッション(剥奪=収奪)の理論であり、それとの関連において、美術史家ジョルジュ・ディディ=ユベルマンが企画監修した展覧会のカタログに寄稿された諸論考や近年の群集をめぐる論考を概観した。こうした研究活動の結果、とりわけ三つの問題系がヴァイマル共和国の群集論の言説史の捉え直しにとって重要であることが明らかになった。ひとつは主権的主体を前提することなしに人々の共同行動を分析することを可能にするディスポゼッションの概念であり、主権的な主体性の剥奪のうちに私たちの関係的な存在様態と連帯の可能性の条件(応答可能性)を見るバトラーの考察は、20世紀の群集論を規定した個人と群集のラディカルな対立の枠組みを相対化し、その枠組みの外部で群集の行動とその表象を分析することを可能にする。二つ目は、同じくバトラーの考察にある、人々の共同行動を表象=代表とエンアクトメントの緊張関係において分析するしてんである。そして三つ目の問題系は権力と力能の概念的区分であり、カネッティに代表されるドイツ語圏の群集めぐる思考ではこの二つの概念の区別が欠けているというディディ=ユベルマンの指摘は、ヴァイマル共和国の群集をめぐる言説の考察にとって有益な示唆を与えるものである。 本年度はこうした研究にもとづいて、ジュディス・バトラーのディスポゼッションの理論がヴァイマル共和国の群集表象の再検討にとっていかなる寄与をなし得るかを検討する論文を執筆し発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の項目でも述べた通り、当初の予定にしたがって、研究を遂行している。ただし、当初計画では本年度の現代思想と複雑系の理論における集団の振舞いをめぐる理論的考察の検討を行い、次年度にそれらの理論的考察がヴァイマル共和国の群集表象の分析に対してなし得る寄与を考察するとしていたが、本年度は主に現代思想における集団による政治行動の理論を検討し、それと平行して、その理論がもたらす視座がヴァイマル共和国の群集をめぐる言説の再検討に対して持つ有効性の予備的検証を実施した。そして、そうした検証にもとづいて、論文を執筆し、研究成果を公表した。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は本年度に続いて、現代思想および政治哲学における集団の政治行動の理論の検討を継続し、特に権力と力能の区分にもとづいて、ヴァイマル共和国の文学作品および理論的言説における群集表象の分析を行う予定である。さらにそれと平行して、複雑系の理論における集団の振舞いをめぐる分析の検討を進める。また来年度は研究テーマに関連する海外視察と資料調査も行う予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は主にすでに収集してあった文献にもとづく研究活動を行ったため、資料購入の物品費の支出が予定より少なくなっている。また来年度に海外での視察と資料調査を行うため、本年度に使用する予定であった旅費支出を抑制したことも、次年度使用額が生じた原因である。いずれも研究助成期間全体を通した支出見通しにもとづく計画的な予算執行の結果である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は2回の海外出張を予定している。そのうち1回は研究テーマに関連する視察調査、もう1回は研究機関での資料調査のための渡航を予定している。また本年度から購入を先延ばししていた書籍資料の購入も進める。
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