2017 Fiscal Year Research-status Report
映像による知の拡張を目的とする、映像記録を活用した通時的比較研究
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16K13308
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
鈴木 岳海 立命館大学, 映像学部, 教授 (20454506)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大森 康宏 国立民族学博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 名誉教授 (00111089)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 映像人類学 / 同一現場、同一対象、同一撮影者 / 学術映像 / 通時的比較研究 / 映像アーカイブ |
Outline of Annual Research Achievements |
90年代以降、映像技術の発展により動画映像(以下、映像)が大量に記録・保存・流通され、多様な映像アーカイブの実践が試みられてきた。しかし、その可能性は今を記録する共時性に留まるものではない。本研究が着目するのは、同一現場と同一対象を同一撮影者によって記録する通時的な比較研究を可能とする学術映像記録である。代表者らは共時的な民族誌映画や、過去と現在の比較を可能とする映像作品を制作してきた。一方で、映像作品のグローバルな流通の展開により、記録映像に対して、商業映画としての汎用性を持ちうる美学的視点の導入やその優位性が高まることとなった。 こうした中で、本研究の目的は、過去の事象の視覚的復元を目的とした、同一現場と同一対象を同一撮影者によって記録する通時的映像記録が、人文社会科学において新たな仮説や知の拡張に資することを明らかにすることである。 2年目の2017年度において、代表者は、時系列変化を可能とする映像記録の枠組づくりのための基礎作業として、静止画像記録による通時的比較研究の映像提示モデル構築を目的として、ネパール連邦民主共和国、カトマンズ盆地内の2015年に起きた大震災の時系列比較を試みた写真展示とその成果集を作成した。 共同研究者は、国内外の通時的映像記録の取り組みを再検討する調査ならびに京都市左京区静原でおこなわれている成人儀礼「烏帽子儀」の30年にわたる時系列比較を可能とする映像をフランス共和国のケ・ブランリ博物館にて上映した。 これらの実践から、同一現場、同一対象を映像化した通時的な学術映像について、伝統行事のシステムの大きさと、その変遷の速度を視聴可能とすることの重要性が高く評価された。 こうした先行的に映像の展示と上映を通じた講評から、通時的比較研究を可能とする映像作品完成に向けた、内容上、技術上の課題も共有できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者・分担者は長期にわたって共通のフィールドにおいて共同研究をおこなってきたが、あらためて通時的比較研究のモデル構築を目的とした、1)ネパール連邦民主共和国でおきた大震災を扱った時系列比較研究のための静止画像展示、2)京都市左京区静原の成人儀礼「烏帽子儀」の30年にわたる時系列比較を映像で表現した動画上映をおこなうことができた。 記録映像の作品完成に至る、調査撮影・作品試行版作成・上映確認・作品更新版作成にいたる循環的なプロセスにおいて、方法論的に異なる作品群と第1次編集版の上映による講評によって、調査撮影・作品試行版作成・上映確認を経ることができ、その後の作品更新版作成に至る過程に進むことができる状況となっている。 これにより、映像による通時的比較研究をおこなう際に、技術的課題と内容解釈の課題を明らかにすることができ、最終年度における、通時的比較研究を可能とする映像作品制作に向けた、本研究の位置づけと応用的な調査の必要性を共有することができている。 また通時的比較研究を可能とする調査研究ならびに記録映像制作を通じて、人文知に新たな視座をもたらす可能性を検討する際に多様な議論をもたらす、上映場所や視聴対象の確保も試行的に実施することができた。 一方で、フランス共和国におけるテロなどの影響を考慮し、研究代表者による理論的課題と方法論の共有のための海外調査をおこなうことができなかったことについては、最終年度の研究成果の発信と講評の際に調査を継続することも視野に入れている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画では、初年度に本研究の問題意識と方法論共有のために、CNRSをはじめとしたフランス共和国において、時系列比較映像に関する記録映像調査を共同調査する予定であったが、今年度においても、フランス共和国でのテロ事件が起きたことにより、代表者と分担者の調査日程を合わすことができず、共同調査に至らなかった。 そのため2017年度は、研究代表者が時系列変化の基礎モデルとしての静止画記録を元にモデル構築に向けた取り組みをおこなった。また、共同研究者は、現在編集されている動画による時系列変化比較の上映をフランス共和国でおこなった。これにより、各研究者が担当する領域・テーマに関する個別調査を進展させた成果を共有することができたため、最終年度に向けた成果の取りまとめに関わっては、大きな障害はないと考えている。 そこで、最終年度の予定は変更なく、個別調査によって得られた知見を集約しながら、調査対象へのフィードバックを地調査過程に組み入れた通時的に比較可能な映像作品を制作する。また、映像作品の評価とモデルの検証をおこない、人文科学における通時的比較映像のモデルと、映像による知の拡張可能性に関する議論をする研究会開催に向けて、本年度実施した上記の二つの取り組みをおこなった諸機関や研究者等へ働きかけを強めていく。くわえて、撮影対象に記録映像完成版をフィードバックすることを通じて、人文知のモデルを社会への還元可能性について検討できるように調整していくこととしたい。
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Causes of Carryover |
フランス共和国におけるテロ事件を考慮し、調査出張をすることができなかった。そのため、成果発信と講評の際に、調査出張をできる限り実施する計画である。
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Remarks |
写真展「カトマンズ盆地のいまむかし-ネパール大地震から2年半-」、2017年11月1日から11月4日、京都市壬生寺千体仏塔1階礼拝堂 ワークショップ「その時なにがおきたのか-映像で記録することの諸問題について-」、2017年11月4日、京都市壬生寺千体仏塔1階礼拝堂
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Research Products
(2 results)