2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K13327
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
吉原 和志 東北大学, 法学研究科, 教授 (10143348)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
得津 晶 東北大学, 法学研究科, 准教授 (30376389)
河合 晃一 金沢大学, 法学系, 講師 (50746550)
福嶋 路 東北大学, 経済学研究科, 教授 (70292191)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 起業 / クラスター / 会社法 / 経営学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は、次年度の成果公表に備え、各分担者が、①日本の起業率の低さを支える要因のストーリーの分析、②循環プロセスの解明を行った。 ①まず、代表者吉原の指揮のもと、日本の起業率の低さの法制度等の制度的要因と文化的要因がどのように機能しているのかを先行研究の分析を行った。具体的には、起業率の現状を確認するために、Global Entrepreneurship Monitor Report (GEM調査)、中小企業白書を確認し、法制度・制度的要因についてはDoing Business 2014 Reportを分析した。また、大規模公開会社を対象とした投資家保護法制度の研究(La Porta et al, Law and Finance, 106 JPE pp.1113-1155 (1998))等を参考にして、制度的要因の分析を行った。だが、その結論として、日本はむしろ起業を阻害する制度的要因は少ないのではないか、むしろ、起業がしやすい環境にあることが知られていないのではないか、という結論に至っている。さらにいえば、起業を阻害するのは他のオプション、とりわけいわゆる「正社員」として従業員となることがより魅力的であることに原因があるのではないか、ということに着目している。他方、文化的要因については、川島武宜『日本人の法意識』等の古典を分析したが、必ずしも、起業文化の欠如を示す伝統的な要素は見当たらなかった。このことは、前述の正社員を前提とした社会制度(社会保障など)という制度的要因の存在が要因であることを裏書きする。 ②制度的要因に比して、文化的要因が特定されていないことから、制度的要因と文化的要因の循環プロセスがなされているかは不明確なままであり、むしろ、制度的要因に絞った研究に舵を切りつつある。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
起業を阻害する制度的要因について起業それ自体のやりにくさではなく、正社員オプションという他のオプションが魅力的であることに原因があるのではないか、という特定作業は進んでいる。これに対して、文化的要因については、正社員信仰という限りではこれも文化的要因といいうるが、これも背後に正社員を前提とした社会保障制度など制度的要因あってのことであり、純粋な文化的要因とは言いづらい。となると、制度的要因が中心であって、本研究が重要視している、制度的要因と文化的要因の相互循環という観点からの研究はなされていない。むろん、このまま、制度的要因を中心に分析していくことにも研究として意義はあるため、おおむね順調と評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は前年の成果をもとに、クラスター化の形成要因と、日本におけるクラスター化の進行状況について研究を進める。具体的には、日本におけるクラスター成功地域である、札幌ITクラスター、浜松のヤマハや浜松フォトニクスからのスピンオフ、アルプス電気の北上工場からのスピンオフを対象としたインタビュー調査を実施する。また、比較対象として、起業・イノベーションの評価の高いアメリカにおいてインタビューを実施も考えている。これにより起業の集積が継続している諸要因がどのように機能していたのかについてのストーリーを抽出することを目指す。特にスピンオフのほか、多くの企業の起業段階を経験するシリアル・アントレプレナー、ベンチャー投資を中心的に行うエンジェル投資家等の、起業についてのコア人材といった文化的要因がどのように寄与しているのかに留意する。そして、これらのコア人材が、州や市の議会等、法制度の作成プロセスに対してどのような働きかけを行っているのかという循環プロセスおよびストーリーを抽出する。 これによって構築したモデルをもとに、現在日本の政策的課題である起業の促進につながる政策の提案を行う。
|
Causes of Carryover |
本年度は制度的要因の分析を中心に行い、次のステップであるクラスター化の研究については平成29年度におこなうことになったため、そのための予算を繰り越した。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度には、日本国内のクラスター化成功地域の調査を行うために、平成28年度未使用分を使用する。
|