2016 Fiscal Year Research-status Report
親密圏における個の再発見と保護法理の抜本的見直し-家族法における家族解体の試みー
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16K13330
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Research Institution | Osaka Institute of Technology |
Principal Investigator |
高田 恭子 大阪工業大学, 知的財産学部, 准教授 (70569722)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
立石 直子 岐阜大学, 地域科学部, 准教授 (00369612)
清末 愛砂 室蘭工業大学, 工学研究科, 准教授 (00432427)
松村 歌子 関西福祉科学大学, 健康福祉学部, 准教授 (60434875)
梅澤 彩 熊本大学, 大学院法曹養成研究科, 准教授 (90454347)
李 妍淑 北海道大学, 法学研究科, 講師 (90635129)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 家族法 / 家族モデル / 家族規範 / 離婚 / 婚姻 / 子ども / 相続 / 扶養 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度は,本研究が出発点とする「家族規範」について,法制度を分析するとともに他分野からの批判を取り入れて考察し,現行法における家族モデルとそこから作出される当該規範の問題点を明らかにした。そこでは,民法家族法は,個人間の法律関係として規律しているが,実際には一定の「家族モデル」を基準とし,離婚や相続など,そこから逸脱する家族形態に対して十分に対応できていない。他の社会保障をはじめとする補完制度においても,当該家族モデルを基準に適用がなされるため,モデルに該当しない非規範的家族の保護のあり方に問題が生じていること,婚姻家族に該当しない事実婚や未婚,同性婚をはじめとする法律婚ができない家族関係を包含することができない問題点を確認することができた。また,さまざまな問題点を分析すると,ジェンダーに起因する原理的課題があることも明らかである。そのようなことから,家族の形態にとらわれず,現代社会にある問題となる家族規範をも克服可能な新たな法原理が求められていることが明らかとなった。主な研究成果のアウトプットは次の通りである。 立法過程,判例動向の分析についての研究成果報告として,日本女性学会学術大会の個別報告「判例にみる家族規範と女性差別~平成27年大法廷判決(女性再婚禁止期間,夫婦同姓)から~」で発表した(高田恭子個別報告,2016年6月於:明治大学)。他分野の学問領域におけるフェミニズムからの批判を検討するために,岡野八代(同志社大学)をゲストとして公開研究会「家族はなぜ必要か?『家族規範』の批判的再考」(2016年8月於:同志社大学)を開催した。2016年度の研究成果の総括として,ジェンダー法学会学術大会において,ワークショップ「『変わる家族』に家族法は対応できているか~離婚後に生じる問題を中心に~」を開催し,「家族モデル」およびそれが作り出す規範の問題点を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016年度の研究課題は,立法過程や判例の動向を分析し,親密圏領域における家族規範を家族法領域の中から明らかにすることをその内容とした。とくに,他分野からの批判的視点を取り入れるために開催した公開研究会では,政治学者である岡野八代氏を招いて,「家族」における歴史的分析をフェミニズムからの批判を加えて発表していただいた。研究会に参加した社会学や文学分野の研究者からは,いかに法規範が,実社会の認識とズレがあり,保護の需要に対応できていないかの指摘を受けた。ゲイやレズビアン,事実婚を選択するカップルや,恋愛を基礎としない連帯関係を包含しない状況にあるのかなどについて確認することができ,家族モデルの問題点と家族規範から排除されてしまう課題としていた内容を検討することができた。また,各自が分担した検討領域について,その研究成果を,ジェンダー法学会のワークショップおよび個別報告にて発表し,その進捗状況を確認するとともに,現行家族法が想定する家族モデルの課題を再確認することができた。とりわけて前記ワークショップでは,他の社会保障をはじめとするセーフティネットの基準ともなり,家族生活の様々な領域において働き,そこから排除されている多様な家族関係や親密な関係をカバーできず,法制度として問題があることを確認することができた。そのようなことから,おおむね順調に研究が進展していると評価した。一方で,当初最終年度に予定していたフィンランドにおける公開研究会を,予算の関係から中止したため,それに変わる最終研究成果の出し方について検討中である。その限りにおいて,研究を進展させるためのさらなる計画とその実施が必要であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度は,これまで検討して明らかにしてきた日本家族法における「家族モデル」と「家族規範」の問題点を出発点にして,海外において,同様の問題が発生しているか,それに対してどのような対応がなされているのか,パラダイムシフトとなるような原理の転換をみることができるか分析する。そのために,研究代表者および分担者,それぞれの専門領域について海外実地調査を加えて比較検討し,課題の分析をさらに深める。比較検討するための前述の考察内容をもとに,日本の現状に対して下記の視点から考察を行う。 研究代表者および各研究分担者が比較対象とする諸外国の法制度や,フェミニズムの視点から批判された政治学や法哲学からの批判を照らし合わせてさらに批判的に検討すべき点を明らかにする。そうしたうえで,日本家族法を次のように分析する。まず,個々人のライフスタイルや直面する課題から,具体的に現行家族法の問題点や克服すべき課題を明らかにする。そして,それらの分析結果をもとに,「家族モデル」およびその運用から作出される規範の弊害を具体的に示し,親密圏を規定する領域を,これまで問題とされてきた公私二分論や,性別役割分業,セクシャリティ,親子を含む親密圏など多角的な視点で批判的に検討し,これまで法律関係の基礎となってきた基本原理を問い直して分析する。 研究成果の発表として,6月に予定の日本女性学会学術大会でのワークショップの開催(確定),7月に予定の国際家族法学会における個別報告(確定),12月に予定のジェンダー法学会でのワークショップの開催(未定)を目指して準備している。
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Causes of Carryover |
2017年3月に行った海外実地調査の清算を,決済にかかる事務手続きが年度末であることからスムーズにいかず,年度内に実施することができず,2017年度に持ち越されたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年3月に行った海外実地調査の清算が2017年4月に清算されたため,執行済みである。
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Research Products
(4 results)