2017 Fiscal Year Research-status Report
親密圏における個の再発見と保護法理の抜本的見直し-家族法における家族解体の試みー
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16K13330
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Research Institution | Osaka Institute of Technology |
Principal Investigator |
高田 恭子 大阪工業大学, 知的財産学部, 准教授 (70569722)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
立石 直子 岐阜大学, 地域科学部, 准教授 (00369612)
清末 愛砂 室蘭工業大学, 工学研究科, 准教授 (00432427)
松村 歌子 関西福祉科学大学, 健康福祉学部, 准教授 (60434875)
梅澤 彩 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(法), 准教授 (90454347)
李 妍淑 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 博士研究員 (90635129)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 家族法 / 家族規範 / 親子関係 / LGBT / 法の包摂 / 生殖補助医療 / ニュージーランド法 / 英国法 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は,2016年度の研究で取り扱った非規範的家族の法的保護の問題を規範的に分析するために,現行家族法における「家族」として保護される境界を,非規範的家族の法的家族への包摂のあり方を分析することにより明らかにした。日本の判例を詳細に検討すると,非規範的家族の家族法への包摂の限界が「公序」として発現し,その背景に社会の中の「家族規範」が深く影響を与えていることが分かった。さらに,ニュージーランドにおける多様なカップル形態が認める中での親子関係設立の法的枠組みや英国における多様な家族形態のあり方から,法的境界の設定における多様な包摂の手法を学び,提示することができた。特に,社会学や政治学の視点から提示されている包摂の問題点,すなわち,多様な家族形態を婚姻制度あるいはパートナーシップ制度で包摂していこうとする動きの背景に,LGBT主流化として推し進める新自由主義下における政治があり,特権付与装置としての婚姻制度自体への批判やさらなる排除などの問題について,規範の側面から捉えなおして考察した。新たな法原理の可能性を探る試みとして,英国における子ども法の展開を同国の司法制度改革の一連の流れを踏まえたうえで分析した。研究成果の主なアウトプットは次の通りである。 日本女性学術大会にてワークショップ「法的保護を受けない「家族」を考える-多様な家族の保護を目指して-」を開催した(企画者:高田恭子,2017年6月於:中京大学)。本ワークショップには,ゲストとして社会学の青山薫(神戸大学),実務家の山崎新(弁護士),法哲学の井上匡子(神奈川大学)を招き,法的境界のあり方を多角的に議論した。また,ジェンダー法学会個別報告「「家族」の法的境界と新しい家族法原理の可能性―英国における家族司法制度改革の分析から―」(報告:高田恭子,2017年12月於:東北学園大学)にて研究成果を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2017年度の研究計画は,社会学や政治学など,他分野からの家族法に対する痛烈な批判を組み入れて2016年度の研究で明らかにした現行家族法の問題点を踏まえ,家族法における「家族」を再検討するために,判例分析や他国における立法過程を分析することであった。2016年度の研究で,離婚をテーマにして,家族法が夫婦と子どもという近代家族を前提にしていることから,適切な法的保護をすることができていない問題が発生していることや,とりわけて女性に不利益をもたらす結果となっており,離婚後に生じている諸問題が,ジェンダーに起因するものであること,多くの場面で法が白地規定となっていることからジェンダー問題を拡大させていることの問題点が挙げられていた。今年度は,そこで明かとなった諸問題を,各研究メンバーの研究領域において掘り下げるとともに,法が与えうる保護の境界(限界)を,判例を分析することによって実証的に明らかにすることができた。また,2016年度に引き続き,他分野の研究者との意見交換や議論を行うことによって,規範のあり方を多角的な視座において深く考察することができた。研究の当初計画であるフィンランド研究は,ニュージーランドおよび英国など,各研究担当者の専門地域をターゲットにして比較検討を行うこととして変更されているが,それに基づく2017年度の計画内容は,すべて実施することができた。その研究成果のアウトプットまで,計画通りに進み,特に,新たな規範のあり方の可能性を探る作業にも着手することができており,予定以上に研究が進んでいると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は最終年度に該当するため,最終のとりまとめにターゲットをおいて研究を進めていく。具体的には,これまでの研究をさらに推し進め,社会学や哲学で分析されてきた現代社会における家族の実態および埋没しがちな個人への問いを,強制規範としての家族法のあり方を根本的に問うものとして組み入れ,家族法が前提とする「家族モデル」の問題点を明らかにする。そして,「家族規範」を排除し「個人の尊厳」に立脚した新たな基本原理として,各研究メンバーのそれぞれの研究領域のなかで考察して模索する。非公開のグループでのスカイプを用いた会議と,直接集まって行う研究会を重ね,これらの成果を,1月に予定する公開研究会で討議し最終的なとりまとめを行う。
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Causes of Carryover |
予定されていた研究会が延期されたため,旅費として予定していた分を執行できなかったが,当該研究会が次年度に開催されるため,その旅費として使用する計画である。
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Research Products
(11 results)