2016 Fiscal Year Research-status Report
標識法における実証と規範:《需要者の認識》に関する理論的・実践的・学際的研究
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16K13332
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
井上 由里子 一橋大学, 大学院国際企業戦略研究科, 教授 (60232568)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
堀田 秀吾 明治大学, 法学部, 専任教授 (70330008)
首藤 明敏 明治大学, グローバル・ビジネス研究科, 専任教授 (30641245)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 標識法における需要者の認識 / 需要者に対するアンケート調査 / 実証的エビデンスにもとづく司法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、(1)標識法上の「需要者の認識」の関わる諸要件の立証手段となる需要者アンケートの調査技法を確立することで、実証的エビデンスにもとづく裁判(evidence based justice)を促進すること、(2)上記諸要件を実証的エビデンスにもとづき立証することの意義と限界を規範的観点から明らかにすることにある。 (1)については、米国の代表的な文献Diamond & Swann, TRADEMARK AND DECEPTIVE ADVERTISING SURVEYS, 2012を参考にして、「混同」、「使用による識別力」、「希釈化」の要件に関して日本法の文脈に整合的な質問票を作成し、母集団設定と標本抽出法に関する検討を行った。また、我が国でアンケート調査の活用がなされていない要因を探るべく、この問題に関する米国での法社会学的研究を整理するとともに、アンケート調査の商標紛争での利用状況に関する米国の実態調査の結果を分析し、日本商標協会会員向けの実態調査の実施準備も行った。 (2)については、法と経済学の観点から商標制度を分析するBone, Enforcement Costs and Trademark Puzzles, 90 VIRGINIA. L. REV. 2099 (2004)、欧州消費者法の文脈上の「平均的消費者」を商標法に応用したDinwoodie & Gangjee, The Image of the Consumer in EU Trade Mark Law (in Leczykiewicz & Weatherill eds, THE IMAGE OF THE CONSUMER IN EU LAW, 2015)、著名商標の希釈化現象の脳科学的観点からの研究などを研究会で取り上げ、学際的観点から理論的検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は本研究の本格的実施のための予備的な作業として関連文献を調査・分析し、具体的調査技法の開発に着手する計画であった。月1回程度、研究会を開催し、概ね計画どおりの進捗となっている。 具体的には、①アンケート調査の技法・方法開発について、米国のDiamond & Swann, TRADEMARK AND DECEPTIVE ADVERTISING SURVEYS, 2012を参照して、「混同」、「使用による識別力」、「希釈化」に関して日本法の文脈に整合的な調査票を作成し、母集団設定と標本抽出法についても検討を行った。②法社会学的な研究として、米国での法社会学的議論を整理するとともに、日米比較のため平成29年度に実施予定の実態調査について、日本商標協会と協議し準備を進めている。③そのほか、法執行コストから商標制度を分析するBone, Enforcement Costs and Trademark Puzzles, 90 VIRGINIA. L. REV. 2099 (2004)、欧州商標法における「平均的消費者概念」についてのDinwoodie & Gangjee, The Image of the Consumer in EU Trade Mark Law (in Leczykiewicz & Weatherill eds, THE IMAGE OF THE CONSUMER IN EU LAW, 2015)などの理論研究、脳波実験により商標の希釈化現象を解明する研究などを研究会で取り上げて、学際的な検討を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
研究協力者として、平成28年度途中から商標弁護士1名、企業の知財部門から1名、社会調査会社から3名が新たに加わっており、平成29年度から、商標弁理士1名、企業の知財部門から1名が新規参加の予定である。アンケート調査の裁判実務での活用には、権利保有者である企業、裁判実務に関与する法律専門家、そして社会調査の専門家の3者の連携が不可欠であり、新たな参加者により本研究の実践的目的を達成するための推進力が得られることとなる。企業・実務家への情報提供という観点からも、今後も発信力のある関係者を巻き込んでいきたいと考えている。 平成29年度は、引き続き米国文献に基づき調査技法の開発等を進めることに加え、パイロット調査の実施にも着手する。裁判実務での活用には調査実施の高額なコストがネックになっているので、低コストで信頼性・妥当性のある調査手法の開発を目指すことが課題となる。日本商標協会会員を対象とした実態調査により、日本の裁判実務でアンケート調査の活用が低調である要因を分析するが、弁護士・弁理士ばかりでなく、裁判官のアンケート調査に対する意識・態度を調べる方策を検討することが求められる。
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Causes of Carryover |
当初平成28年度に予定していた「混同のおそれ」の調査票についてのパイロット調査を次年度に繰り延べたことにより、予算の繰り延べが発生した。 これは、平成29年度に予定していた日本商標協会会員向けの実態調査を先行することとし、前倒しして同実態調査の準備・調整を行ったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
日本商標協会会員向けの実態調査の準備はほぼ終えており、当初の予定どおり平成29年度早々にこれを実施する。また、それに引き続き、平成28年度に実施予定であった「混同のおそれ」調査票のパイロット調査を実施すべく調査会社との協議を開始しており、平成29年度に適宜実施し、当該繰り延べ額を充当する計画である。
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Research Products
(8 results)