2018 Fiscal Year Research-status Report
コーディネーション問題は道徳を生むか:進化シミュレーションによる検証
Project/Area Number |
16K13462
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
平石 界 慶應義塾大学, 文学部(三田), 准教授 (50343108)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池田 功毅 中京大学, 心理学部, 助教 (20709240)
小田 亮 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50303920)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 道徳 / コーディネーション問題 / コストリーシグナル / 進化 / 社会系心理学 / 進化シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
Dynamic Coordination Theory(DeScioli & Kurzban, 2013)をベースにした進化モデルを立て、進化シミュレーションの実装を行った。DCTによれば、道徳には、集団内の対立における圧倒的多数派形成を促進し、コーディネーション・ロスを回避する機能がある。本研究計画では、コストリーシグナルの視点を導入し、DCTを拡張することを目指している。道徳が機能するためには、対立する各陣営は、自陣営が多数派となるべく道徳的主張を行うと考えられる。そうした主張の「信憑性」は、主張にかけたコストによって判断されるだろう。つまり各エージェント、よりコストを掛けた信号が発せられている陣営に加わるし、翻ってそのことが、コストの掛る道徳的主張を進化させると予測した。 2018年度は、過年度に実装した進化シミュレーションの発展を行った(平石・横田・池田・中西・小田, 2018)。1)一度いずれかの陣営に参加した場合には、他陣営からの道徳的主張への感受性を下げる「頑固」なエージェントを導入した効果を検討したが、頑固さは結果に大きな影響を持たないことが示唆された。2)道徳的陣営には参加するが、自らはコストのかかる道徳的主張を行わない「ただ乗り」エージェントを導入すると、コーディネーション・ロスが回避されにくくなることが示唆された。そうした傾向は特に、道徳的論争が長く続く場合に強く現れることが示された。 またシミュレーション研究と並行して、人々が道徳的主張に実際にコストを払うのか検討するために、2017年度に開発した新しい実験パラダイムについて、実証研究を実施し、自らが道徳的問題における多数派であるとされた場合と、少数派であるとされた場合の、道徳的主張に払われるコストの変化を検討した(和田・平石・小田, 2018)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
進化シミュレーションの実装については、共同研究者その他の助力もあり、プロジェクトのメンバー(研究代表者、研究分担者)自身での実装が可能なレベルにまで達することができ、当初から計画していたモデルを試行することができた点では、順調な進展が見られたと評価している。一方で、学会報告等を通じて、実装したモデルと、本プロジェクトのスタート地点となった理論(DCT)との関係を再考する必要が明らかとなった。このことは理論的発展という意味ではむしろ大きな前進であるが、論文化という視点からすると、新たに複数のモデルを検討する必要が生じたことを意味する。そのため1年間の研究期間の延長が必要となった。 2017年度より本科研費とメンバーが一部重複する別のプロジェクトとの共同で、個々人が道徳的主張にかけるコストをpaper-and-pencil課題、またはWeb調査で簡便に測定する新しいパラダイムの開発を進めた。シミュレーション研究への示唆的結果も得られつつある一方で、全く新しいパラダイムゆえに論文化にまでは至っていない。これも1年間の研究期間延長を申請した理由である。 研究期間の延長が必要となったが、それは当初に想定していなかった展開が見られたためであることを鑑みて「おおむね順調」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度の研究から示された、ただ乗りエージェントの存在がある場合に、道徳論争が長く続くほど、道徳的主張が進化しにくくなるという知見について、パラメータ空間を広げて検証して確認を得た後に投稿論文化を進める。 一方で、従前のモデルで表現されていたものは、厳密にはダイナミック・コーディネーション理論が呼ぶ「道徳」とはなっていないことが、理論的検討により明らかとなった。この点を改善したシミュレーションを実装する。具体的には、集団内のコーディネーションを達成するための方法として用いられる、属人的でない、予め定められた基準というのが、DCTにおける「道徳」である。そこでエージェントが、ランダムに選ばれた一方の陣営の主張にたいして、より高い(ポジティブな)感受性を持つように設定したモデルを実装する。このことによって、ただ乗りエージェントによるコーディネーション阻害効果が弱化するかを検討する予定である。
実証研究については、前年度までに開発してきた道徳的主張へのコストを測定する実験パラダイムについて、その妥当性を確立するための実験を実施し、その結果をもって投稿論文にまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、進化シミュレーションを実装するためのResearch Assistantを3年間雇用する計画であった。しかし当初RAを勤めていた横田晋大氏が広島修道大学・准教授に着任して、連携研究者として本プロジェクトに参加することが可能となったこと、また横田氏ほかから教授を得ることで、研究チームメンバーが自身でシミュレーションを実装可能となったため予算を節約することが可能となった。
他方でシミュレーションと対応して実施中の実験室実験については、一方で各年度に実施できる実験セッション数には実験参加者数や実施時間枠の確保といった制約があり、まだ実施できていない実験条件が残っている。そこで、次年度使用額は主として、実験参加者謝金を中心とした実験実施費用に充当する計画である。その他には研究打合せならびに学会・研究会報告のための国内旅費として利用する計画である。
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Research Products
(4 results)