2016 Fiscal Year Research-status Report
弾性・非弾性散乱データ同時解析による計測物質科学の創成
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16K13660
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
西堀 英治 筑波大学, 数理物質系, 教授 (10293672)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 放射光散乱 / 弾性散乱 / 非弾性散乱 / 高エネルギーエックス線 / 結晶構造解析 / 散漫散乱解析 / コンプトン散乱解析 / 手法開発 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、その輝度向上によって原子・電子配置から、電子運動量密度、フォノン分散、スピン状態、原子核配置など観測対象が拡張し続けている放射光X線散乱を対象に、観測から有限温度における物質の機能予測・設計を可能とする学理基盤を回折法による電子密度分布に基礎をおいて構築を目的として進めている。 本年度は、SPring-8にて、37KeVという装置のこれまでの限界を超えた高エネルギーX線回折の実験を開始するとともに、データ解析に関しても実解析とともに情報収集等を開始した。弾性散乱であるBragg散乱、熱散漫散乱については、ダイヤモンドと単体金属を試料として、30Kから800Kの範囲で回折データを測定することで、Bragg散乱の強度減衰とともに現れる熱散漫散乱を精密に計測することに成功した。現在、熱散漫散乱解析のための理論の構築を進めている。Bragg部分では世界最高精度で電子密度を解明することができたと考えている。この研究については、今年度の8月にインドで行われる国際結晶学連合の会議に申し込み済みである。 また、コンプトン散乱からの電子運動量密度の解明を進めるために、自身が委員を務める国際結晶学連合の会合において、非弾性散乱のセッションをコンプトン散乱の研究者と同時に提案して、Chairを務めることが決定した。加えて、コンプトン散乱の研究者の研究者が主催する国際会議にも出席し、情報収集と研究交流にも努めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、自身がSPring-8のパートナーユーザーメンバーを務めるビームラインにおいて、ビームライン担当者と複数回議論を重ね、本研究を遂行するために、これまでのビームラインでの利用波長の上限である35KeV(0.353Å)より高エネルギーの37KeV(0.32Å)のデータ測定を開始した。初期の機器装置の調整や、測定データの質の判断等を年度の前半に行い、後半の9月以降からは、実際にデータ解析可能なデータ収集が開始できるようになった。前半には、ビームストッパ散乱の低減や、バックグラウンドなど微弱でブロードな散乱の検出器位置依存性など複数の問題がみられたが、ひとつずつ解決し、進めていくことができた。 年度の後半からのマシンタイムでは、He吹き付け装置の利用や、良質試料の選択なども開始して、ダイヤモンドや単体金属の超精密データを測定することに成功した。 また、第一原理計算を利用したX線回折データの予測システムについても、WIEN2kをインストールしたワークステーションを複数台稼働させ進めている。ダイヤモンドについては、構造因子を条件を変えて計算し、実験値との違いを検証している。また、理論では推定が難しい、非調和熱振動による構造因子変化も、実験と共有結合を適切にあわらした理論計算との比較によって解明が進んでいる。 これらの成果については、デンマークオーフス大学材料結晶学センターとも連携の上、8月にインドで行われる国際結晶学連合会合に発表を申し込んだ。加えて、この研究が、コンプトン散乱の研究者や当初予定していなかったX線自由電子レーザーの研究者も巻き込んで幅広く展開しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
放射光実験、データ解析、理論構築、人脈の構築など複数の事柄が協調して進み始めていることを実感しているため、現状の進め方を継続しつつ、研究全体を進行させる。研究計画で予定されている、(1)回折実験から求めた構造因子を利用した価電子のエネルギー最適化計算システムの構築、(2)電子状態を、実測の構造因子、コンプトンプロファイル、熱散漫散乱と強度を一致させつつ、エネルギー最適化を行うシステムの開発。についても、年度の前半からすすめる。(1)については、類似の先駆的な研究であるDr. Dylan JayatilakaのTONTOシステムを参考にし開始の予定であった。一方、昨年度の途中より、研究代表者の研究室に着任したVenkatesha Rama Hathwar助教が、TONTOシステムを使った共同研究をJayatilaka氏のグループと進めていることが判明した。このため、このグループとの連携は一層進んでいる。例えば、昨年末には、筑波大でワークショップを開催し、関連研究者を招待し講演をしてもらっている。このため、この部分については、年度の前半には目途が立つと思われる。 (2)については、コンプトン散乱の原理の理解が想定より困難な部分があることが判明したため、国際結晶学連合などの会議を通じて知り合ったコンプトン散乱の研究者に大学で集中講義的なレクチャーを年度の前半に計画している。その後に、ソフト作成を開始していく予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は、ワークステーションの大規模システムは購入せずに一台のシステムをまず購入し、ソフトウェアは購入して動作確認を中心に進めた。その結果、ソフトの利用などは十分に進み、さらなる大規模システムに進められる目途が立った。一方で、この新システムの開発には、国際会議参加等で情報を集めることが必須のことも痛感した。このため、研究を進めている大学院生に国際結晶学連合会合に出席してもらうことを考えて、申し込みをした。この研究にかかわる、国際会議発表が次年度に行われることになったため、その分の旅費を賄うために次年度に予算を残した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、ソフトウェア開発を中心に、国際結晶学連合会合をふくめた会合出席による成果発表と情報収集をともに進めて、最終的なシステムの完成を目指す。西オーストラリア大への出張については計画通り進める予定である。それ以外の経費の利用については、計算機の拡充を行うとともに、コンパイラ等のソフトウェア開発のための環境整備に利用する。
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] 3.Antiferromagnetic Ordering in Single-Component Molecular Conductor, [Pd(tmdt)2].2016
Author(s)
Satomi Ogura, Yuki Idobata, Biao Zhou, Akiko Kobayashi, Rina Takagi, Kazuya Miyagawa, Kazushi Kanoda, Hidetaka Kasai, Eiji Nishibori, Chikatoshi Satoko, Bernard Delley,
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Journal Title
Inorganic Chemistry
Volume: 55
Pages: 5732-5734
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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