2016 Fiscal Year Research-status Report
月面における水のその場分析に向けた、宇宙機搭載用分光同位体分析装置の開発
Project/Area Number |
16K13875
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
橋爪 光 大阪大学, 理学研究科, 助教 (90252577)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山中 千博 大阪大学, 理学研究科, 准教授 (10230509)
時田 茂樹 大阪大学, レーザーエネルギー学研究センター, 講師 (20456825)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 水分子 / 同位体組成 / 光学分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、今後の宇宙生命探査における基盤技術となる、宇宙機搭載用の水同位体計測装置を開発する。水は、惑星が生命を育むために最も重要な物質と考えられている。天体における水の供給、保持、散逸過程を解明するためには、微量な水が脆弱な状態で天体表面に束縛されたその現場を正確に理解する必要がある。これには、地球帰還試料・隕石分析や、天体上空からのリモートセンシングに加えて、天体表面におけるその場分析が必要である。月面は、惑星・水探査技術の確立に向けた格好の場である。月面着陸機搭載のその場分析装置により、固有の大気・海洋を持たない月面における、微量な水の実像とその挙動を解明することを目指す。本研究において開発を進める水分子同位体分光分析装置は従来の宇宙機搭載用装置より格段に小型化された装置である。赤外光源・ミラー及び光検出器という少数の軽量部品を核としたコンパクトな装置でありながら、高感度・高精度同位体分析が実現するのが特長である。本年度、水分子の酸素・水素同位体分析に向けて、キャビティ・リングダウン・スペクトル(CRDS)分析の手法確立、および、将来の宇宙探査への応用に向けた基礎研究を進めた。 分析技法確立、すなわち、ハード面の取り組みとしては、CRDSの原理検証ラインを構築し、水分子による吸収・リングダウンスペクトルを確認することが出来た。ソフト面では、簡素なハードウェアによる同位体分析をめざし、宇宙環境を想定した問題点の洗い出しや、分析最適波長域の探索を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分析技法確立、すなわち、ハード面の取り組みとしては、CRDSの原理検証ラインを構築し、水分子による吸収・リングダウンスペクトルを確認することが出来た。 今後の同位体分析に向けた準備を進めた。水を構成する水素と酸素の同位体組成, D/H, 17O/16O, 18O/16Oを求めるために、水分子の中で圧倒的割合を占めるH216O以外に、HD16O(地球標準海水の同位体組成を仮定した場合の存在割合3.0 x 10-4)、H217O(同3.8 x 10-4)、及び, H218O(同2.0 x 10-3)を正確に定量する必要がある。同位体組成を求める際、信号強度(光学分析においては光の吸収の強さ)が著しく異なると同位体分析精度が大きく劣化するため、分析対象となる同位体組み合わせの分子においてなるべく同じ吸収の強さを持つことが望ましい。本年度、HITRANデータベースを用い、まず、1~3ミクロンの波長域において、水分子の吸収線を網羅的にリストし、全圧0.1 気圧を想定し、隣接する他の吸収線の裾でマスクされずにはっきりと独立したピークが確認できる、マイナー3種の吸収線を選別する作業を進めた。この作業により、同波長域に知られる水の吸収線約7万本から約360本の吸収線を候補としてリストすることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
ハード面では、プロトタイプ分析ラインで確認された性能を参照しつつ、宇宙探査における無人分析を想定した問題点を洗い出し、その対策を議論する。特に、温度変化に伴い同位体組成分析値が敏感に変動する点について、その問題解決向けた分析セルの設計を進める。 ソフト面では、各同位体の最適吸収線候補リストから、(1) チューナブルレーザ1本が振ることの出来る波長幅に相当する数nmの範囲にマイナー3種が揃う波長域、(2) ミラーの均等な反射特性が期待出来る数十nmの範囲にマイナー3種の強い吸収線が揃う波長域、(3) CO2などの他の揮発性分子の吸収線による干渉の有無など、様々な基準のもとに候補を絞り込み、極力簡素な仕組みで動作する同位体分析装置実現に向けた基礎資料にする予定である。
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Causes of Carryover |
使用するレーザーの波長選択について、などのCRDS試作機設計関連の作業を入念に進めたため、設計により規格が変わる光学部品の購入予定が次年度以降に移行したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年において、規格が確定し次第、光学部品の購入を進める。
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