2016 Fiscal Year Research-status Report
不連続凍土帯のツンドラにおけるメタン動態に凍結-融解サイクルが及ぼす影響
Project/Area Number |
16K14869
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
犬伏 和之 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 教授 (00168428)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | メタン酸化 / メタン生成 / 永久凍土 / 温暖化 / 融解 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球温暖化によって,北極域ツンドラで広く分布している連続永久凍土帯の一部が融解し,不連続になるとともに,永久凍土中に埋蔵されていた強力な温室効果ガスであるメタンの放出量が増加すると予測されている。しかし,不連続永久凍土帯におけるメタン生成・酸化プロセスの理解はいまだに不十分である。本研究ではアラスカの不連続永久凍土帯に分布するツンドラ生態系や北方林生態系から採取した土壌について,①初期融解時のメタン大量放出,②凍結-融解サイクル中のメタン生成量と酸化量,③メタン生成菌・酸化菌の種構成と活性を明らかにすることを目指している。本研究の特色として,メタン生成と酸化の両方に注目しており,拡大する不連続永久凍土帯におけるメタン動態の全体像を得ることが可能である。 本年度は土壌コアの培養条件やメタン関係遺伝子解析の条件検討を主に行なった。海外協力研究者との事前打ち合わせに基づいて提供されたアラスカ内陸部から凍結状態で採取した土壌コアや文献調査によって,培養実験および遺伝子解析の条件を検討した。その結果,培養は,温度を0,5,10℃と1週間ずつ変えていき,表層は好気的に,下層と永久凍土表層は嫌気的に培養することが,凍結状態からの融解を想定した培養実験として妥当と考えられた。遺伝子解析としてPCR-DGGE法を試み,バンドパターンの比較から,微生物群集構造がサイトや層ごとに異なるだけでなく,培養前後でも変化する可能性が見いだされた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海外研究協力者との事前打ち合わせに基づいて提供されたアラスカ内陸部の北方成熟林と火災跡地の土壌コアを凍結状態のまま,大臣許可を得て輸入した。輸入した土壌コアは,表層から深さ1mで,成熟林から採取したコアの最下層は永久凍土の表層であると考えられた。当初の計画に従い予備試験として,各コアの深さ約20cm,50cm,および70cmから厚さ約3 cm程度のディスクを切り出し,1 週間ずつ温度を変えながら培養した。切り出し時に,0℃未満に保つことが難しいことから,当初予定した-5℃での培養は諦め,代わりに,温度を0から10℃まで5℃ずつ変えながら,計3週間培養することが適当と考えた。培養中,定期的にメタン濃度を測定し,その経時的変化を追跡した。その際,融解時の永久凍土表層からのメタン大量放出を当初計画通りに検出できた。また各試料よりDNAを抽出し,PCR-DGGE法による遺伝子解析を試みた。バンドパターンから微生物群集構造がサイトや層ごとに異なるだけでなく,培養前後でも変化する可能性が推察された。また,次年度以降用いるメタン生成阻害剤であるBES(ブロモエタンスルホン酸)の添加量は文献調査から終濃度で20mM程度とした。今年度は,条件検討のための予備試験および文献調査を重点的に行ったため,学会発表などでの成果の公表は見送った。
|
Strategy for Future Research Activity |
1年目の条件検討に基づいて培養実験および遺伝子解析を行い,不連続永久凍土帯のツンドラや北方林におけるメタン動態の全体像を,凍結状態からの融解を模した培養実験で明らかにすることを目指す。まず各層とも培養系を1 反復当たり6 本を用意する。培養開始前にすべての培養系に対して100%N2 (表層は新鮮空気)+数ppm CH4 をフラッシュし,うち1 本にはメタン生成系の阻害剤であるBES(ブロモエタンスルホン酸)を添加し,0℃で培養する。1週間後,バイアル内のメタン濃度を測定し,BES未添加の培養系1本とBES添加区を土壌分析用に回収する。他の4本のバイアルは,再び100% N2 (表層は新鮮空気)+数 ppm CH4 のフラッシュと,うち1 本へのBES 添加を行い5℃で1週間培養する。培養後,0℃培養時と同じように作業し,残った2本の培養系を10℃で1週間培養する。以上の培養を,1セットとして複数回行う。各温度におけるBES未添加区と添加区でのメタン濃度の比較から,各温度・層におけるメタン生成量と酸化量をそれぞれ見積もる。さらに,回収した土壌試料について,メタン生成菌および酸化菌を対象とした遺伝子解析を行い,凍結状態からの融解におけるメタン動態の全体像を明らかにすることを目指す。 次年度得られる成果については,次年度中に学会の年次大会で発表し,適当な学術誌へ論文として投稿することを目指す。
|
Causes of Carryover |
本年度は試料調製と遺伝子解析の条件検討まで終えたので,次年度,遺伝子解析を重点的に進めるため,その予算と合算して使用したいため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
遺伝子解析を重点的に進める。すなわち,まず永久凍土から切り出したディスク試料の各層ともに培養系を1 反復当たり4 本を用意する。培養実験に必要な試薬類,ガス分析に必要な高純度ガス類,メタン生成菌および酸化菌の定量PCR およびDGGE 解析に必要な薬品類,また研究打ち合わせおよび成果発表に必要な旅費,研究補助に必要な謝金などを使用する計画である。
|
Research Products
(1 results)