2016 Fiscal Year Research-status Report
オゾン増加環境での落葉樹の植物起源揮発性有機化合物と食葉性昆虫の動態解明
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16K14932
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小池 孝良 北海道大学, 農学研究院, 教授 (10270919)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 冬樹 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (20187230)
宮崎 雄三 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60376655)
中村 誠宏 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 准教授 (80545624)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 越境大気汚染 / 緑化樹 / 対流圏オゾン / 生物起源揮発性有機化合物 / 白金触媒 / セスキテルペン / モノテルペン / ハンノキハムシ |
Outline of Annual Research Achievements |
近年急増してきた地表付近のオゾン(O3)が落葉広葉樹の虫害に及ぼす影響を明らかにする。光合成生産量は葉面積指数(面積当りの葉面積)と正の相関があり、虫害による葉量減少は森林のCO2吸収能を低下させる。生産量推定をより精度高く行うには虫害の発生とその程度に関わるメカニズムを早急に知る必要がある。多くの被食防衛物質は光合成産物由来の2次代謝産物であるが、従来の制御環境での研究を基礎にするとオゾンによって光合成生産が抑制され、葉の防衛能力は低下するはずである。しかし、開放系オゾン付加施設での観察からは、オゾン付加区での虫害が少なかった。この理由を生物起源揮発性有機化合物(BVOC)、葉の被食防衛物質の定量、摂食試験を組み合わせて解明する。 初年度は北大北方生物圏フィールド科学センターの開放系O3付加施設に育成中の4年生シラカンバの虫害とBVOCの放出を調べた。O3暴露は日中7:00-19:00に行われており、対照区のO3;濃度は25-35ppb、O3区では約70ppbであった。調査時期は2016年7月中旬(O3暴露3年目)であり、1つのシュートをテフロン製の袋で覆い、袋内に放出されるBVOCを採取管へ吸着させる“枝チャンバー法”を用いた。ここで2世代目の幼虫による食害が始まるハンノキハムシの生活史に注目した。BVOC測定には、1つのシュートをテフロン製の袋で覆い袋内に放出されるBVOCを採取管へ吸着させる“枝チャンバー法”を用いた。周辺大気を電動ポンプで吸引し、白金触媒(400℃加熱)を用いて測定したシュート以外のBVOC影響を排除した。 O3暴露によるBVOC(モノテルペンとセスキテルペン)の放出・組成比の顕著な変化はないと結論付けられる。従って、O3区におけるシラカンバの虫害には、シラカンバの葉が放出するBVOC単独では影響していない可能性が示唆された。今後、忌避物質としての役割を調査する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
比較対象として注視してきた欧州シラカンバの被食葉での研究成果と比べると、比較的、想定した結果が得られた。α-farneseneの他、(E)-β-ocimeneやβ-caryophyllene等の特徴的なBVOCの放出が確認されていることから確信した。本来、α-Farneseneは虫害後に放出増加することが確認されており、食害の多い対照区で放出が大きくなることが予想された。O3区での1個体がα-Farneseneを多く放出した原因は依然不明であるが、個体の特性、もしくはO3暴露により虫害応答が一時的に高まっていた可能性が考えられる。調査には虫害の少ない葉を選んだが、虫害影響が一時的なBVOC放出増加として表れることを考慮しても、本研究の測定結果に虫害影響が含まれている可能性は否定できない。 そこで、本研究における結果は、O3暴露による虫害影響を含んだ将来の自然環境に、より則したものだと考えている。しかし、今後より正確なデータを得るためには、測定葉の虫害が起こった時期を把握する、あるいは操作可能な実験系を構築する必要がある。 O3暴露によるBVOC放出の変化がない事実からO3区での虫害メカニズムを説明する他の要因を模索せねばならない。1つの可能性としては大気中でのO3-BVOC間の反応によるBVOCの機能変化が起きることである。例えば、従来のBVOCが嫌忌性の酸化生成物となるか、誘因性であったBVOCがその構造を失うことで昆虫が感知できなくなるか、大きく分けて2通りが考えられる。 枝チャンバー法では葉から放出されてすぐのBVOCを採取することになるが、実際に昆虫が感知する場合には、ある程度の距離をBVOCが大気中へ拡散されていく状況が想定できる。よって、高濃度O3区においてBVOCが酸化する可能性を指摘したい。さらに、葉緑体のチラコイドの膜脂質のO3酸化による影響も考慮する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今回の測定結果ではモノテルペン(MT)とセスキテルペン(SQT)のみしか検討できていないため、他成分(アルデヒド類やアルコール類)の検量も進める必要がある。また、シラカンバのBVOCの放出速度は温度に加え光への依存性も強いことから、より正確なBVOC放出の推定には光強度(PPFD)のデータが求められる。今回は測定機器不具合のため解析に含めることが出来なかったため、今後の課題として検討していきたい。 例えば、キュウリを食害するハムシに対してY字管選好性試験でO3-BVOC反応の効果を検証した研究がある。この事例では、ハムシがBVOCとO3の混合空気を避け、BVOC単体の空気を選好するという結果が示された。この結果は、上述した内の誘因性の消失が支持されるものである。もちろん、BVOCの比率からも影響が指摘されていることから、まずは、Y字菅の成果を期待する。セスキテルペン(SQT)は昆虫ホルモンと構造が酷似した化合物群である。両化合物群とも昆虫に対して誘因性、あるいは嫌忌性を示す可能性が高いことから、本研究ではモノテルペン(MT)及びSQTの放出量・比率に注目した測定を検討する。 結果でも述べたが、忌避作用物質としてアルデヒド類の調査と生体膜のチラコイドに局在する糖脂質にも注目し、O3による酸化後の酸化脂質の実態に迫りたい。このためには、ガククロマトグラフィー(GLC)を常用している研究室の協力をえるため、交渉を進める。 GLC用のエステル化には、従来は、BF3(三フッ化ホウ素)を利用してきたが、毒性のある気体で粘膜を傷つけるため、新しく開発されたメチルエステル化のためのカルボン酸化合物の探索を行っている。カルボン酸と、ヒドロキシル基をもつアルコールまたはフェノール類を混合し、濃硫酸を触媒にして加熱すると、脱水縮合して1つの化合物になるという基本線から、試薬を決める予定である。
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Research Products
(5 results)